のだつて云ひ出してね、この見れば見る程面白い人間つてものを、縦横自在に楽しまうぢやないか。それだのに何故《なぜ》世間の奴等は、ビク/\して此の人間の面白さを味《あぢは》はないんだ。それぢや率先して吾々が、此の人間を楽しまうぢやないかつて、相談一決して、さてその会員の人選に及んだのだが、広い文壇を見渡した所、先づ此処に集つた三人以外には、どうしても君位なものだといふ事になつてね。それから急に君を招集しようと云ふんで、先刻《さつき》から銀座のLとか、I座とか云ふやうな君の立ち廻りさうな要所々々へ電話をかけて、網を張つて待つてゐたんだ。」Tは私が落着くのを待つて、かう詳しく説明した。
Y君も傍から巨躯《きよく》を揺《ゆす》つて、人懐《ひとなつ》つこい眼を向け乍ら、
「ほんとに待つてゐたんだよ、君。」と云つた。
「ほんとに何処の一流の芸者にしたつて、今夜の君位熱心に掛けられたものはないよ。かうして僕たちは誰も呼ばずに、君の来るのを待つてたんだからね。これで来なかつたら来ない方が嘘《うそ》だ。」S君は更に云つた。
「いや、さうかい。それはほんとに有難う。僕は今迄E軒にゐたんだ。」と私もやうやく二三杯の酒と共に、落着いて話が出来るやうになつた。
「E軒か。さうと知つたら早く電話をかけるんだつた。E軒で何をしてゐたんだ。」
「不愉快な目に会つたよ。」私はわざと投げ出すやうに云つた。
「不愉快な目つてどうしたんだ。」
「なあに実はね。今日僕たち仲間だけの三土会と云ふ会があるつて云ふんで、久しぶりで連中の顔でも見ようと思つて、出かけて行つた所が、ふとした事から僕の遊蕩が問題になつてね、皆から口を揃へて忠告やらを受けた訳さ。余り癪に触つたから、つい其足で飛び出して来たんだ。そしたら此処でかう云ふ始末なんだ。天網恢々《てんまうくわい/\》粗にして洩《も》らさず。――僕はほんとに嬉しくなつちまつた!」
「棄てる神あれば拾う人間[#「人間」に傍点]あり、さ。だから人間会が必要なんだよ。」とY君は自分の諧謔《かいぎやく》に、自ら満足して又|哄笑《こうせう》した。
「で、どんな忠告を受けたんだい。」とTは黙して置けぬと云ふ風に、真面目《まじめ》になつて訊《たづ》ね出した。
「要するに、君たちが悪友なのさ。」
「それで俺達と附き合ふのが不可《いけ》ないとでも云ふのかい。」
「まあさうだ。君たちと
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