父の死
久米正雄
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)上田《うへだ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)其|下《しも》ぶくれの
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)間違つた[#「間違つた」は底本では「間違った」]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)する/\と
−−
一
私の父は私が八歳の春に死んだ。しかも自殺して死んだ。
二
その年の春は、いつもの信州に似げない暖かい早春であつた。私共の住んでゐた上田《うへだ》の町裾を洗つてゐる千曲川《ちくまがは》の河原には、小石の間から河原蓬《かはらよもぎ》がする/\と芽を出し初めて、町の空を穏《おだや》かな曲線で画《くぎ》つてゐる太郎山《たらうやま》は、もう紫に煙りかけてゐた。晴れた日が幾日《いくにち》も続いて乾《かわ》いた春であつた。雪解時《ゆきげどき》にもかゝはらず清水は減つて、上田橋《うへだばし》の袂《たもと》にある水量測定器の白く塗られた杭には、からびた冬の芥《あくた》がへばりついてゐた。ともすると
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