私の社交ダンス
久米正雄

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)お濠《ほり》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)それは又|所謂《いはゆる》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ぐわん[#「ぐわん」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ムザ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−

 確かジムバリストの演奏会が在つた日の事だつたと思ふ。午後四時頃、それが済んで、帝劇を出た時は、まだ白くぼやけたやうな日が、快い柔かな光で、お濠《ほり》の松の上に懸《かゝ》つてゐた。
 音楽の技巧的鑑賞には盲目《めくら》だが、何となしに酔はされた感激から、急にまだ日の暮れぬ街路へ放たれた心持は、鳥渡《ちよつと》持つて行きどころがない感じだつた。「さて、どうしようか。」と、僕たち二三人は行きどころに迷つてゐた。そして、此《こ》の興奮を抱いて、ムザ/\つまらない所へ行くのは、何だか惜しい気がするが、結局銀座でもぶら/\歩いて、時を消す外《ほか》ないと思つてゐた。
 と、後から、追ひ越して来
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