競漕
久米正雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)競漕《きょうそう》会
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)も一度|強《し》いて
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ちぐはぐ[#「ちぐはぐ」に傍点]な
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一
毎年春季に開かれる大学の競漕《きょうそう》会がもう一月と差し迫った時になって、文科の短艇《ボート》部選手に急な欠員が生じた。五番を漕《こ》いでいた浅沼が他の選手と衝突して止《や》めてしまったのである。艇長の責任がある窪田《くぼた》は困った。敵手の農科はことにメンバアが揃《そろ》っていて、一カ月も前から法工医の三科をさえ凌《しの》ぐというような勢いである。翻《ひるがえ》って味方はと見ればせっかく揃えたクリュウがまた欠けるという始末。しかし窪田は落胆はしなかった。そして漕いだ経験は十分だが身体《からだ》がないので舵手《だしゅ》になっていた小林を説きつけて、やむを得ず五番に廻《まわ》した。舵手の代りなら、少し頭脳さえよくて、短艇の経験がちょっとあれば誰れにでも出来る。なあに漕法さえしっかり出来上っ
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