明の劣れる地方よりも、積極的妨げの行われる程度は少く、予防的妨げの行われる程度は強いことが、わかると思う。
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〔訳註〕このパラグラフ以下は第二版より現わる。
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 蒙昧諸民族の人口に対する優越的妨げたる戦争は、最近の不幸な革命戦を含めても、確かに減少している。そして身体の清潔の程度の向上、都市の清掃及び建設法の改善、経済学の知識の進歩によるより[#「より」に傍点]公平な土地生産物の分配が、普及して以来、疫病《ペスト》、激しい疾病、及び飢饉は確かに緩和され、また以前より頻繁でなくなった。
 人口に対する予防的妨げについて云えば、そのうち道徳的抑制1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]の部類に属するものは、現在では男子の方では余り行われていないと認めなければならないが、しかし私は、前に考察した国よりも多く行われている、と確信する。そして、近代ヨオロッパにおいては、過去の時代や文明の劣れる国民よりも、女子の遥かに大きな部分がその一生涯のうちの大きな部分を、この徳を実行して送っていることは、ほとんど疑い得ないところである。しかしそれはとにかくとして、もし吾々が、単に、主として、結果に関係なく慎慮的な思慮から結婚を延期するという意味の、一般的名辞のみを考えるならば、これは、かかる見解からして、近代ヨオロッパにおいて人口を生活資料の水準に抑止する妨げのうちで、最も有力なものと考え得よう。
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 1)[#「1)」は縦中横] 読者は私がこの語を狭い意味に用いていることを想起せられたい。(訳註――この註は第三版より現わる。ただし第五版に用語上の訂正がある。)
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底本:「各版對照 マルサス 人口論2[#「2」はローマ数字、1−13−22]」春秋社
   1949(昭和24)年1月10日初版発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
その際、以下の置き換えをおこないました。
「敢て→あえて 恰かも→あたかも 普く→あまねく 予め→あらかじめ 凡ゆる→あらゆる 或る、或→ある 雖も→いえども 如何→いか 幾何→いくら 聊か→いささか 何れ→いずれ 何時→いつ 一層→いっそう 一杯→いっぱい 苟くも→いやしくも 愈々→いよいよ 於いて→おいて 概ね→おおむね 於ける→おける 恐らく→おそらく 拘わらず、拘らず→かかわらず 且つ→かつ 曾て、嘗て、嘗つて→かつて かも知れ→かもしれ 位→くらい 蓋し→けだし 毎→ごと 殊に→ことに 而も→しかも 然ら→しから 然る→しかる 屡々→しばしば 暫く→しばらく 直ぐ→すぐ 総て→すべて 精々→せいぜい 夫々→それぞれ 度い→たい 大抵→たいてい 沢山→たくさん 唯→ただ 但し→ただし 度→たび 度々→たびたび 多分→たぶん 偶々→たまたま 為め→ため 丁度→ちょうど 一寸→ちょっと 就いて→ついて 終に→ついに 就き→つき (て)行く→(て)いく (て)置く→(て)おく (て)来る→(て)くる (て)呉れる→(て)くれる (て)見る→(て)見る 何処→どこ 乃至→ないし 中々→なかなか 成程→なるほど 筈→はず 甚だ→はなはだ 程→ほど 殆んど→ほとんど 略々→ほぼ 正に→まさに 先ず→まず 益々→ますます 又、亦→また 迄→まで 間もなく→まもなく 寧ろ→むしろ 若し→もし 勿論→もちろん 以て→もって 尤も→もっとも 専ら→もっぱら 最早→もはや 易い→やすい 稍々→やや 僅か→わずか」
また、底本では格助詞の「へ」が「え」に、連濁の「づ」が「ず」になっていますが、それぞれあらためました。
入力:京都大学電子テクスト研究会入力班(荒木恵一)
校正:京都大学電子テクスト研究会校正班(大久保ゆう)
2008年11月28日作成
青空文庫作成ファイル:
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