ウェイではほとんど分業が行われていない。家内経済の必要品のほとんど全部は、各自の家計で供給される。啻《ただ》に醸造、パン焼、洗濯の如き普通の仕事が家庭で行われるばかりでなく、多くの家庭は自分自身のチイズやバタを作りまたは仕入れ自分自身の牛肉や羊肉を屠殺し、自分自身の雑貨を仕入れる。そして農業者や地方人は一般に、自分自身の亜麻や羊毛を紡ぎ、自分自身のリンネルや毛織布を織る。クリスチアニアやドロンタイムのような大都市にも、市場と呼ばるべきものは何もない。一片の鮮肉を得るのさえ極めて困難であり、盛夏の候でさえ一|封度《ポンド》の新鮮なバタはなかなか買えるものではない。一年のある季節に大市が開かれ、保存のきく一切の食料品はこうした時に買込まれる。そしてもしこの注意を怠ると、ほとんど何物も小売では買えないから、非常な不便を蒙ることになる。一時的に田舎に住居を構える者や農場を有《も》たぬ小商人は、非常にこの不便を喞《かこ》ち、また大きな地所を有つ商人の妻達は、ノルウェイの家族の家内経済は、あまり広汎複雑なので、それに必要な監督をするだけで注意が全部占められて、他を顧みる余裕はない、と云っている。

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