フ両年とも労働者は収穫の続く三箇月の間ひどい寒さと湿気とに曝された――しかし主としては、下層階級の生活様式に生じた変化に帰すべきなのである。従来は一家の主人は誰でも弱麦酒の一杯も飲めたし、また時々は自分のささやかな畜群の中から羊の一匹も殺すことは出来たが、今では事情は一変している。貧民の間にしばしば見られる生活必需品の欠乏、彼らの湿っぽくて臭い家屋、及び中流階級の間の憂鬱は、この教区に疾病と死亡が多い主たる原因であるように思われる。若い者は肺病で、年寄は水腫と神経性熱病で、斃れているのである。
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 1)[#「1)」は縦中横] Vol. ix. p. 550.
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 この教区の状態は、他に似ているものもあるけれども、蘇格蘭《スコットランド》の平均的状態の例外と考え得ようが、これは疑いもなく借地人の没落によって生じたものである。かかる結果は驚くに当らないが、けだし農業用の家畜と資本の喪失以上の害悪は一国に容易に起り得るものではないからである。
 吾々は、この教区の疾病は、一七八三年の不作と粗食の結果として増加したと云われていることを、述べておこう。同一の事情は他の多くの教区でも指摘されており、そして、絶対的の飢饉で死ぬものはほとんどないけれども、致命的な疾病がほとんど常に伴生するものである、と云われている。
 ある教区では、出生及び結婚の数は、年の豊凶によって影響されるとも云われている。
 ロス郡のディングウォール教区1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]では、一七八三年の不作後は、出生は平均より一六少く、最近の最低数より一四少かった。一七八七年は豊年であった。そして翌年には出生が同様の比率で増加し、そして平均以上一七であり、他の年の最高数以上一一であった。
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 1)[#「1)」は縦中横] Vol. iii. p. 1.
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 オークネイのダンロスネスに関する報告1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]では、筆者は、年結婚数は季節に依存すること大であると云っている。豊年にはそれは三〇またはそれ以上に上るが、しかし不作の場合にはその半数にも達しないであろう。
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 1)[#「1)」は縦中横] Vol. vii. p. 391.
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 一七五五年におけるウェブスタ博士の調査の時以来の蘇格蘭《スコットランド》の人口増加の総数は、約二六〇、〇〇〇であり1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、それに対しては、それに比例する食物が、農工業の状態の改良と馬鈴薯耕作の増大とによって、作り出された。この馬鈴薯はある地方では一般人の食事の三分の二を占めている。蘇格蘭《スコットランド》の出生超過の半ばは移民として出ていくと計算されている。この流出が著しく国の負担を減らし、残留者の境遇を改善する傾向のあることは、疑い得ない。蘇格蘭《スコットランド》はそれでも確かに人口過剰であるが、しかし人口がもっと少かった一世紀ないし半世紀以前ほどには過剰でない。
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 1)[#「1)」は縦中横] 一八〇〇年の人口実測の報告によれば、蘇格蘭《スコットランド》の総人口は約一、五九〇、〇〇〇であり、従ってこの時までの増加は三二〇、〇〇〇以上であった。一八一〇年には人口は一、八〇五、六八八であり、一八二〇年には二、九〇三、四五六であった。(訳註――この註は第五版及び第六版において訂正加筆さる。)
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 愛蘭《アイルランド》の人口の詳細についてはほとんど知られていない。従って私はただ、馬鈴薯の使用の拡大によって、前世紀中にその人口が極めて急速に増加したと云うに止めることとする。しかしこの栄養ある食物が低廉であり、またこの種の耕作をする時には平年にはわずかな土地で一家を支える食物を得られるという事情は、人民の無智と低劣な境遇――そのために彼らは目先の単なる生存が出来るという見込だけで結婚してしまうのであるが――と相俟って、この国の産業と現在の資源が許す以上に人口を増加せしめるほどに結婚を奨励する結果となっている。そしてその結果は当然に、下層階級の者は最も貧窮した悲惨な状態にあるということになるのである。人口に対する妨げは云うまでもなく主として積極的なものであり、そして極貧、湿潤な陋屋、粗悪不十分な衣服、及び時折の欠乏から起る疾病によって生ずる。かかる積極的妨げに加うるに、近年は、また内争、内乱、及び戒厳令という罪悪及び窮乏があるのである(訳註)。
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〔訳註〕第二版においてはこの次に一パラグラフあったが第三版以後では削除された。それは次の如くである、――
『以上の概観において、社会に広く存在し
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