、英蘭《イングランド》の一切の社会階級を通じてある程度作用しているように思われる。最高の地位にあるものの中にも、一家をもつと仮定すれば切りつめなければならぬ経費と止めなければならぬ楽しみとを考えて、結婚をしないでいるものがある。かかる考慮は確かに大したものではない。しかしこの種の予防的予見は、その地位が低くなるほどますます重大な考慮の種となるのである。』
 右の記述に続いて上記の諸パラグラフが出てくるのであり、すなわち第一段では予防的妨げと積極的妨げとが共に行われていることを説いて、その予防的妨げの説明として上記の記述が出ているのである。従ってこれに続いて今度は積極的妨げの説明があるのであるが、これは第二版以下では削除された。削除された部分(第五章の冒頭)は次の如くである、――
『人口に対する積極的妨げとは、私は、既に始った増加を抑圧する妨げを意味するのであるが、これは、もっぱらではないとしても、主として、社会の最下層階級に限られる。この妨げは、私が右に述べた他方の妨げほど誰の眼にも明かに映るものではない。そしてその作用の力と範囲とを明確に証明するためには、おそらく、吾々が現在もっている以上の資料を必要とするであろう。しかし私は、年々死亡する多数の子供の中《うち》、非常に多大の比率が、時々ひどい窮状にさらされまたおそらく不健康な住居と苛酷な労働とに運命づけられて、その子供に適当な食物と注意とを与え得ないと想像されるものに属するという事実は、死亡表を注意深く見たものが普く認めていることである、と信ずる。貧民の子供のこの死亡率はあらゆる都市において絶えず注意されている。それは確かに同じ程度には地方には存在しない。しかしこの問題は、在来は十分な検討を受けていないから、地方においてさえも中流や上流の階級よりも貧民の子供の方が比例上余計死ぬわけではないと云い得るわけではない。実際、六人の子供をもち、時には絶対的なパンの欠乏に悩む、労働者の妻が、その子供に生命を維持するに必要な食物と注意とを常に与えることが出来ようとは、到底想像出来ない。農民の息子や娘は、物語に書いてあるような薔薇の天使の姿はしていない。彼らがその発育中にいじけ、一人前になるのに長い年月を要することは、田舎の久しく住んでいるものの認めざるを得ないことである。十四歳か十五歳と思われる男児が、聞いてみるとしばしば十八歳か十九歳である。そして鋤を牽くのは確かに健康によい運動に違いないのに、この仕事をしている子供には脚にふくらはぎの見られるものが滅多にない。これは適当な栄養か十分な栄養かの不足にのみ帰し得べき事情である。』
 そして第一版では、これに続いて、英蘭《イングランド》貧民法が論ぜられているのである。
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 これらの摘要の結果は、英蘭《イングランド》及びウェイルズにおける年結婚は総人口に対して一対一二三・二であることを示しているが1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、これはノルウェイとスイスを除けば、前に検討したいずれの国で見られるよりも低い結婚率である。
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 1)[#「1)」は縦中横] Observ. on the Results of the Population Act, p. 11, printed in 1801. 人口条令に対する囘答は、ついに幸にも、我国の人口問題が長年包まれていた曖昧な点を明かにし、そして政治計数家に若干の極めて貴重な資料を与えてくれた。同時にまた、それは、それから得らるべき推論に関して推理や推測を全然加える必要のないほどに完全なわけではないことを、告白しなければならない。だからこの問題が現在の努力の後に中断されてしまわないことを、熱心に希望しなければならない。最初の困難が克服されたのであるから、十年ごとの人口実測は容易に慣れた仕事となり得よう。そして出生、死亡、結婚の記録簿は、少くとも五年ごとには受取り得よう。私は、在来吾々が想像するを常としていたよりも多くの推論が、一国の国内状態に関し、かかる記録簿から得らるべきことを、確信するものである。
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 前世紀の初頭に、ショオト博士はこの比率を約一対一一五と見積った1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。おそらくこの計算は当時は正しかったであろう。商業及び農業のより[#「より」に傍点]急速な増進により人口が以前よりも急速に増したにもかかわらず、現存結婚率が低減しているのは、一部分は近年見られる死亡率の低減の原因であり、また一部分はその結果である。
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 1)[#「1)」は縦中横] New Observ. on Bills of Mortality, p. 265. 8vo. 1750.
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