、彼らの一般に認めるところである。しかし商売か農場を手に入れるのは、おそらく彼らがずっと年取ってからのことであろう。農場の不足は一般に喞たれていることであり、またあらゆる種類の取引は競争が激しいから、誰もが成功するということは出来ない。事務所の書記やあらゆる種類の商業や自由職業の競争者の間では、おそらく他のいかなる社会部門よりも人口に対する予防的制限が普及していることであろうと思われる。
一日十八ペンスか二シリングの稼ぎを得て独身で楽に暮している労働者は、一人を養うに足る以上には出ないと思われるわずかな額を四、五人に分つ前に、いささか躊躇することであろう。自分の愛する女と一緒に暮すためには、彼はおそらく、もっと安い賃銀にも、もっとつらい労働にも、喜んで堪えることであろうが、しかしもし大家族を有ち何らかの不幸に遭遇するならば、いかに倹約しても、いかに身体を働かしても、子供が飢えるのを目撃し、または扶養のため教区に依頼するという、断腸の思いを避け得ないことを、自覚するに相違ない。独立愛好心は確かに何人もこれが根絶を望まぬ感情である。しかし英蘭《イングランド》の貧民法はあらゆるものの中で、漸次にかかる感情を弱める傾向の最も強いものであり、ついにはおそらくこれを完全に破壊してしまうべきものである、と告白せざるを得ない。
富者の家庭に住んでいる召使は、結婚をあえてせんとするに当っては、更にいっそう強力な制約を突破しなければならない。彼らは生活の必要品や愉楽品を、ほとんどその主人と同じくらい豊富にもっている。労働者階級の仕事と食物に比べれば、彼らの仕事はやさしく食物は贅沢であり、またその誇りが害されれば主人を代える力のあることを自覚しているので、他に依存しているという観念は弱くなっている。このように現在は楽な地位にあるが、もし結婚すれば彼らの見通しはどうであろうか。取引をするにも農業をするにも知識も資本もなく、日々の労働で生活資料を稼ぐことには馴れず、従って出来ず、従って彼らの唯一の落着き先は、彼らの人生に対する幸福な夕暮の輝やかしい見込を確かに少しも与えてくれない、みすぼらしい居酒屋であろうと思われる。従って彼らの大多数は、この好ましからぬ将来の見通しに阻まれて、独身の現状に満足しているのである。
もしこの英蘭《イングランド》の社会状態の概観が真に近いとすれば、人口に対する予防的妨げが社会のあらゆる階級を通じて大きな力で作用していることが認められるであろう(訳註1)。そしてこの観察は、一八〇〇年に通過した人口条令1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]の結果得られた記録簿からの摘要によって、更に確証されるのである。
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1)[#「1)」は縦中横] 本章は、その結果が一八〇一年に公表された第一囘人口実測の直後、一八〇二年に書いたものである。(訳註――この註は第六版のみに現わる。ただしこれ以前の部分はもっと早く書かれたものである。次の訳註を参照。)
〔訳註1〕本章の最初からここまでに至る部分は、おおむね第一版の英蘭《イングランド》に関する記述から書き写されたものである(Cf. 1st ed., pp. 63−69.)。第一版の右の個所は、古代及び支那の人口に対する妨げを論ずる箇所に続いて現われており、すなわち次の如き記述をもって始まっている、――
『近代ヨオロッパの主要諸国を検討してみると、それは牧畜民族であった当時以来人口の点で著しく増加してきているけれども、現在その増加は極めて緩慢であり、二十五年ごとにその人口を倍加することなく、そのためには三、四百年またはそれ以上必要であることが、わかるであろう。実際ある国は絶対に静止的であり、またあるものは退歩的ですらあるかもしれない。この緩慢な人口増加の原因は、両性間の情欲の衰滅に帰することは出来ない。この自然的性向はなお少しもその力を減ずることなく存在していると考える十分な理由がある。しからば何故《なにゆえ》にその結果は人類の急速な増加となって現われないのであろうか。ヨオロッパのいずれか一国をとってみれば、他のいずれの国のこともそれで同じくわかるのであるが、この一国の社会状態をよく眺めてみると、吾々は、この問に答え、一家の扶養に伴う困難の予見が人口の自然的増加に対する予防的妨げとして働いており、また下層階級のある者からその子供らに適当な食物と注意とを与える力を奪うところのその現実の窮状が、積極的妨げとして働いている、と云うことが出来るのである。
『英蘭《イングランド》はヨオロッパの最も繁栄せる国の一つであるから、十分一例として採ってよかろうし、またそれについて行われる観察は、ほとんど変更を加えずに人口増加の緩慢な他のいずれの国にも当てはまることであろう。
『予防的妨げは
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