ュして読むことは不可能である。彼は曰く、『もし全く妻を有たずに行くことが出来るとすれば、吾々は直ちにこの害悪から免れることであろう。しかし自然の法則の指示するところは、妻があっては幸福に生活し得ないし、妻がなければ人間の種を継続することは出来ない、ということなのであるから、吾々は、刹那的な快楽よりは永続的な安固を尊重すべきである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』と。
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 1)[#「1)」は縦中横] Aulus Gellius, lib. i. c. 6.
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 事態の緊急に際して発布され、そして支那やその他の諸国における如くに宗教と一緒にはならない、結婚と人口を奨励するための積極的法律は、それが目ざす目的に合致することは滅多になく、従って、一般にこれを提議した立法者の無智を表示するものである。しかしかかる法律が表面的に必要だという事実は、ほとんど常に、その国の道徳的、政治的堕落の程度の著しいことを表示する。そしてそれが最も力強く強調される国においては、啻に悪習があまねく流行していることが見られるのみならず、政治的制度が、勤労にとり、従ってまた人口にとり、極めて不利であることが見られるであろう。
 この故に私は、ロウマの世界はおそらく、トラヤヌス帝及びアントニヌス家の下にあった長い平和期に最も人口が多かったとヒュウムが想像しているのは1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、誤りであると考える点において、ウォレイス2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]に同意せざるを得ない。吾々は、勤労が引続き活溌な間は戦争は大して人口を減少せしめるものでなく、また人々が生活資料を見出し得ぬ時は平和も人口を増加せしめないことを、よく知っている。それ故に、トラヤメス帝の下における結婚に関する法律の更新は、悪習と、勤労の沈滞とが、引続き流行していることを指示するものであり、そして大きな人口増加を想像することとは矛盾するように思われる。
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 1)[#「1)」は縦中横] Essay xi. p. 505.
 2)[#「2)」は縦中横] Dissertation, Appendix, p. 247.
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 おそらく、莫大な数に上る奴隷が、ロウマ市民の不足を補って余りあろう、と云われるかもしれない。しかしこれらの奴隷の労働は、非常に大きな人口を養うに足るほど十分には農業に向けられなかったことがわかる。領土の若干について事情はどうであったとしても、イタリアにおける農業の衰退は一般に認められているように思われる。無償で人民の間に分配するために多量の穀物を輸入する有害な慣習は、人民に大打撃を与えたが、その打撃からは人民はその後決して恢復することは出来なかった。ヒュウムは曰く、『以前には穀物を輸出していたイタリアが日々のパンのために全属領に依存しなければならなくなったことを、ロウマの学者達が喞《かこ》った時に、彼らはこの変化を決してその住民の増加には帰さず、耕耘及び農業の放棄に帰したのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、』と。更に他の場所で彼は曰く、『すべての古代の著者は、遠隔な諸州、殊にシリア、キリキア、カパドキア、小アジア、トラキア、及びエジプトから、イタリアへと、不断の奴隷の流入があったことを、吾々に物語っているが、しかしイタリアでは人口は増加せず、そして著者達は勤労と農業の不断の衰退を喞っているのである2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。』と。トラヤヌス帝及びアントニヌス家の下における平和が、人民の習慣をして、かかる事態を本質的に変更するほどに急変せしめたとは、ほとんど考えられないのである。
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 1)[#「1)」は縦中横] Essay xi. p. 504.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 433.
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 奴隷制の状態については、それが行われている国においてそれが種の増殖にとり不利であることの最も有力な証拠は、かかる不断の流入を必要とするという事実である、と云い得よう。この必要は同時にまた、古代の奴隷は現代の下層階級のものよりも人間の養育に役に立つ、というウォレイスの説を1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、全く否定するものである。彼が述べているように、現代の労働者が全部結婚するわけではなく、また彼らの子供の多くは、両親の貧困と怠慢とのために死んだりまたは病身で無用になるのは、疑いもなく真実であるけれども2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]、しかもかかる増加の障害にもかかわらず、いかなる国においても、それが自由な国であるならば、その社会の下層階級が、彼らの労働に対する需要にたっぷり等しいだけの人間を養育しないという事例は、おそらくほとんど示し得ないであろう。
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 1)[#「1)」は縦中横] Dissert. on the Numbers of Mankind, p. 91.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 88.
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 奴隷制の国家に特有であり、そして不断の人数の補充を必要ならしめる、人口に対する妨げを説明するためには、吾々はウォレイスとヒュウムが行ったところの、奴隷を家畜に喩える方法を採用しなければならない。この比喩は、ウォレイスは、その奴隷の世話をしその子供を育てるのが主人の利益であることを証示するために1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、またヒュウムは、奴隷の繁殖を奨励するよりもこれを防止する方が、しばしば主人の利益になることを証明するために2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]、行ったのである。もしウォレイスの説が正しいとすれば、奴隷は容易に繁殖によってその数を維持したであろうことは疑い得ない。しかしそうでなかったことは周知のことであるから、ヒュウムの説の正しいことが明かに立証される。『ロンドンで子供を役に立つまで育て上げるには、小屋で襤褸に包まれオウトミイルと馬鈴薯で養われた同じ年齢の人間を、蘇格蘭《スコットランド》や愛蘭《アイルランド》で買うよりも、遥かに費用が多くかかるであろう。従って、富と人口のすぐれた一切の国においては、奴隷を有つ者は、女の姙娠を阻害し、出産を防止するか破壊するかしたのである3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。』男の奴隷の数が女よりも遥かに多かったことをウォレイスは認めているが4)[#「4)」は縦中横、行右小書き]、このことは必然的にその増加に対するその上の障害でなければならない。従って、ギリシアやロウマの奴隷の間では、人口に対する予防的妨げが非常に大きな力をもって働いたに違いないことが分るであろう。そして彼らはしばしば虐待され、食物はおそらく乏しく、時には多数のものが狭くて不健康なエルガストラすなわち土牢に一緒に押込められていたのであるから5)[#「5)」は縦中横、行右小書き]、おそらく疾病による人口に対する積極的妨げもまた激しく、そして伝染病が流行した時には、それはこの社会部分で最も暴威を振ったことであろう。
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 1)[#「1)」は縦中横] Dissertation, p. 89.
 2)[#「2)」は縦中横] Hume, Essay xi. p. 433.
 3)[#「3)」は縦中横] Id. p. 433.
 4)[#「4)」は縦中横] Appendix to Dissertation, p. 182.
 5)[#「5)」は縦中横] Hume, Essay xi. p. 430.
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 しかしながら、奴隷制が行われる国においてそれが種の増殖に不利であるという事実は、かかる国の絶対的人口に関する問題、または古代と現代の諸国民の人口の多少に関するもっと大きな問題に対し、決定的な解答を与えるものではない。吾々は、ある国が、その人口を全然減少することなしに、多くの不断の奴隷の供給をなし得たことを、知っている。そして、もしかかる供給が、これを受け容れる国における労働の需要に正確に比例して行われたのであるならば――たぶんそうであろうが――この国の人口の多少に関する問題は、まさに、現代の国家におけると同一の基礎におかれることとなり、すなわちそれが雇傭しかつ養い得る人数に依存することとなるであろう。従って、家庭奴隷制が行われていようといまいと、輸出入をその中に包含するに足るほどの面積をとり、かつ奢侈や倹約の習慣の程度に若干の相違を認めた上で、これら諸国の人口は、常に、土地が生産せしめられる食物に比例するであろうということは、議論の余地なき主張として打ち樹《た》て得よう。そして、いかなる物理的または道徳的の原因も、それが過度にかつ異常に作用しない限り1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、それが生活資料の生産及び分配に影響を及ぼす範囲を除けば、人口に対し何ら著しいかつ永続的な影響を及ぼさないであろう。
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 1)[#「1)」は縦中横] バタヴィアの極度の不衛生、及びおそらく若干諸国の疫病は、過度に作用する物理的原因と考え得よう。罪悪的独身生活に対するロウマ人の過度かつ異常の愛着、及びオウタハイトにおける乱交は、同一性質をもつ道徳的原因と考え得よう。かかる事例、及びなおおそらく見出さるべき同一種類の他の事例が、一般的命題を本文にあるように条件づきにすることを必要ならしめるのである。
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 古代と現代の諸国民の人口の多少に関する論争においては、この点は十分に留意されて来ていない。そして、双方の側において物理的及び道徳的の諸原因が提出されたけれども、それからはいずれの側に有利な正しい推論も引出し得なかった。その現実の状態において一国が生産力と人口が大であればあるほど、それが生産物をそれ以上増加する力はおそらく小であり、従って、人口を、この静止的な、または緩慢に増加する、生産物の水準に、抑止するためには、それだけ余計の妨げが必然的に働かされねばならぬということは、双方の側の著者の注意を惹かなかったように思われる。従って、古代または現代の諸国民においてかかる妨げを発見してみたところで、これらのいずれかにおける絶対的な人口の多いことを否定すべき何らの推論もそれからは引出し得ないのである。この故に、古代人には知られなかった天然痘やその他の疾病の流行は、現代国民の人口の多いことを否定する論証と考えることは決して出来ないのである。もっともヒュウム1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]も、ウォレイス2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]も、これらの物理的原因を大いに重要視しているけれども。
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 1)[#「1)」は縦中横] Essay xi. p. 425.
 2)[#「2)」は縦中横] Dissertation, p. 80.
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 彼らは、その提示せる道徳的原因においても、同様の誤謬に陥っている。ウォレイスは古代人の間における積極的結婚奨励をもって、古代世界の人口がより[#「より」に傍点]多かった主たる原因の一としている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。しかし結婚を奨励する積極的法律が必要であるという事実は、人口が豊富であることよりむしろ人口の不足を表示するものである。そして、彼が特に言及しているスパルタの場合においては、前章で述べたアリストテレエスの章句から見れば、結婚を奨励する法律は著しい人民の不足を是正せんとする明白な目的をもって制定されたものであることがわかる。密集した過剰な人口を有つ国においては、立法者は、結婚と子供の増殖を奨励するために、明白な法律を制定しようとは、決して考えないであろう。ウォレイスの他の議論も、これを検討してみれば、これとほとんど同様に彼れの目的にとり役に立たぬことがわかるであろう。
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 1)[#「1)」は縦中横] Dis
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