ホ述べてある2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。そしてもしこれが著しく荒廃的で破壊的でなかったのならば、これはこの帝国の最も重大な事件や革命などと一緒に記されるはずはないのである。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Annals of the Chinese Monarchs. Duhalde's China, vol. i. p. 136.
2)[#「2)」は縦中横] Id.
[#ここで字下げ終わり]
ジェスイット僧の一人は、宦官が人民に対する最大の憐愍を装う場合は、旱魃か、多雨か、または、時に数省を席捲する蝗の大群の如きある他の事件のために、彼らが不作を懸念する場合である、と云っている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。ここに列挙した原因はおそらく、支那において主として不作を惹き起す原因であろう。そしてこれらのものが述べられている有様から見ると、それは稀なことではないように思われる。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Lettres Edif. tom. xix. p. 154.
[#ここで字下げ終わり]
ミイアズは、収穫が全部駄目になり、これに次いで飢饉を起した、猛烈な旋風のことを語っている。同一の原因と――と彼は云う――並びに甚だしい飢饉とにより、支那の南部諸州全部に一七八七年に最も恐るべき飢饉が蔓延し、それによって信じられぬほどの人が死滅した。広東では、飢えに瀕した貧民が最後の息を引取っているのを見るのは珍らしくなかったが、他方母親はその嬰児を殺すのを義務と考え、著者は手間どる死の苦悶から救うために老人に運命の一撃を与えるのを義務と考えていたのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Meares's Voyage, ch. vii. p. 92.
[#ここで字下げ終わり]
ジェスイット僧パレンニムは王立学会の一員に書翰を送って曰く、『貴君がほとんど信ずることの出来ないもう一つのことは、飢饉が支那では極めて頻々と起るということである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』そしてこの書翰の終りで彼は、もし飢饉が時々支那の巨大な人口を滅じないならば、支那は平和に暮せないであろう、と云っている2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。彼はかかる頻々たる飢饉の原因を調査しようと努め、そしてまず飢饉に際して支那は隣国から援助を受けることは出来ず、従って必然的に自己の諸省からその資源の全部を引出さなければならぬ、と云っているが3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]、これはその通りである。彼は次に、遅延や不正があるので、公共の穀倉を開いて最も惨害のひどい地方を救おうとする皇帝の意思が、しばしば達せられない、と述べている。過度の飢饉か不意の洪水かのためにある省に不作が起る時には、偉い宦官は公共の穀倉に助けを求めるが、しかしそれはしばしば、これを管理する下級宦官の不正のために全く空になっている。そこで尋問や調査が行われるが、一般にかかる好ましくない情報を宮廷に知らせたがらない。しかし終には記録が提出される。かかる記録は多くの人の手を経るので、当分の間は皇帝の手許に達しない。そこで国家の大官は集合して人民の窮乏を救うべき方法を審議すべきことを命ぜられる。かくする中に、人民に対する憐愍の情が一杯に表示された布告が全国に発表される。ついに会議の決議が公布される。しかし他の無数の儀式が徒らにその実行をおくらしてしまう。ところが苦しんでいるものは救済が届かぬうちに餓死してしまう。この最後を待たぬものは全力を出して他の地方に匐《は》って行き、そこで食物を得ようとするが、しかしその大部分は途上に斃れてしまうのである4)[#「4)」は縦中横、行右小書き]。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Lettres Edif. et Curieuses, tom. xxii. p. 174.
2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 186.
3)[#「3)」は縦中横] Id. p. 175.
4)[#「4)」は縦中横] Id. p. 180.
[#ここで字下げ終わり]
飢饉が起った時、宮廷が人民を救う何かの努力をしないと、たちまち掠奪者の小群が集まり、次第にその数を増して、その省の平安を害するに至る。だから多くの命令が常に発せられ、そして飢饉が終るまで人民を慰藉する運動が引き続いて行われる。そして入民を救う動機は純真な憐愍の情よりはむしろ国家の必要にあるのであるから、人民は、その必要が要求する時期と仕方で救われることは、少なかろう1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Id. p. 187.
[#ここで字下げ終わり]
この研究の中で挙げてある最後の飢饉の原因で、著者が大いに重大視しているものは、酒を造るために穀物が非常に多く消費されるという事実である1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。しかし彼がこれを飢饉の原因として述べているのは、明かに非常に大きな誤りである。しかもグロジエ僧正の支那に関する一般的記述の中でも同じ誤りが再び現れており、そして上記の原因がこの飢饉という害悪の大源泉の一つと考えられている2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。しかし実際は、この原因の一切の傾向は、これと正反対である。穀物を必要な食物として用いる以外の何らかの用途に消費することは、人口が生活資料の極限に達するに先だってこれを妨げることとなる。そして飢饉の際には穀物はこの特殊の用途から引去られ得るのであるから、かくして開かれる公共の穀倉は、他のいかなる方法によって作られるよりもより[#「より」に傍点]豊富なものとなる。かかる消費がひとたび確立され、永久的になる時には、その結果は、あたかも土地の一部分がその上に住む人間全部と共に、この国から取り除かれたと、全く同一である。残余の人々は、平年作の年には、以前と全く同一の状態にあり、より[#「より」に傍点]良くもより[#「より」に傍点]悪くもならないであろうが、しかし飢饉の時には、この土地の生産物は、彼らがそれを食うのを助力する人の消費は少しもなしに、彼らに返されるのである。支那は、醸造所がなければ、確かに現在より人口が多いであろう。しかし不作に際しては、資源は現在よりも更に少いことであろう。そして同じ大きさの原因が作用する限り、右の結果として、より[#「より」に傍点]多く飢饉の厄を蒙り、かつその飢饉はより[#「より」に傍点]苛酷なものとなるであろう。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Id. p. 184.
2)[#「2)」は縦中横] Vol i. b. iv. c. iii. p. 396. 8vo. Eng. tran.
[#ここで字下げ終わり]
日本の状態は多くの点において支那の状態に似ているから、従ってこれを詳論することは過度の反覆になってしまうであろう。モンテスキウは、この国の人口稠密なことを、女の出生がより[#「より」に傍点]大であることに帰している1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。しかしこの人口稠密の主たる原因は、疑いもなく、支那の場合と同様に、住民の倦むことなき勤勉が今日まで常に主として農業に向けられて来たことにある。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Liv. xxiii. c. xii. 時に人口問題を理解しているように思われるモンテスキウが、また時にはこのようなことを云うのは、驚くべきことである。
[#ここで字下げ終わり]
トゥンベルクの日本に関する記述の序言を読むと、その住民がかくも幸福に豊かに暮していると称せられる国の人口に対する妨げを辿るのは、極度に困難に思われるであろう。しかし彼自身の著書の後の方を読んでみると、序言から得られる印象と矛盾して来る。またケンプフェルの貴重な日本史においては、これらの妨げは十分に明瞭である。彼が載せている、日本で著わされた二つの年代史の抜萃には1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、この記録の始まって以来起った種々なる死亡や疫病や飢饉や流血戦争やその他の破壊原因に関して、極めて興味ある記述が与えられている。日本人が支那人と違うところは、それが遥かにより[#「より」に傍点]好戦的、擾乱的、放縦、かつ野心的なことにある。そしてケンプフェルの記述からすれば、支那における殺児による人口に対する妨げと対応するものは、日本では性に関する行状がより[#「より」に傍点]放縦であり、戦争や内乱がより[#「より」に傍点]多数である事実であることがわかるであろう。疾病及び飢饉による人口に対する積極的妨げに関しては、両国はほとんど同等の水準にあるように思われる。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Book ii.
[#ここで字下げ終わり]
[#改丁]
第十三章 ギリシア人における人口に対する妨げについて
その歴史の初期におけるギリシア人及びロウマ人の間におけるより[#「より」に傍点]平等な財産の分割、及び彼らの勤労が主として農業に向けられていた事実が、大いに人口を奨励する傾向があったに違いないことは、一般に認められているところであり、また実際疑問の余地がないであろう。農業は、啻にヒュウムの云う如くに1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、大衆の生存にとり主として必要な種類の産業であるのみならず、また事実上それは、大衆がそれにより生存し得るただ一つ[#「ただ一つ」に傍点]の種類の産業であって、かくも多数者が養われているかに見える近代世界の多数の技術や製造業の一切は、それが農業生産物の分量を増加し、その分配を便宜ならしめる傾向があるという範囲以外においては、人口を増加せしめる何らの傾向をも有たないのである。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Essay xi. p. 467. 4to. edit.
[#ここで字下げ終わり]
特殊な原因の作用によって、土地所有が非常に大きく分割されている国においては、これらの技術や製造業は、何らかの大きな人口の存在にとり絶対に必要である。これがなかったならば、近代ヨオロッパには人が住んでいなかったことであろう。しかし土地所有が小さく分割されている国においては、これらに対する同じ必要は存在しない。分割そのものが直ちに一大目的を、すなわち分配の目的を、達する。そして、もし戦闘を行い国家の勢力と威厳を保持するための人間に対する需要が恒常であるとすれば、吾々は容易に、この動機は、家族に対する自然的執着と相俟って、各土地所有者を誘って、最大多数の子孫を養い得るようにその土地を極度まで耕作せしめるに足る力をもつものと、考え得よう。
ギリシア及びロウマの歴史の初期に、人民が小さな国家に分たれていたことは、この動機により[#「より」に傍点]以上の力を与えるものであった。自由市民の数がおそらく一、二万を越えなかった処では、各個人は当然に自分自身の努力の価値を感得したであろう。そして、彼れの属する国家が、嫉妬深い油断なき競争の真ただ中に位置を占めているので、その防衛と安全とのためには主として人口に依存しなければならぬという事実を知り、従って彼に割当てられた土地を放置しておくのは市民たるの義務に欠けるものと感じたことであろう。これらの原因は、人間の人為的欲求が農業奨励の干渉を行うを俟たずして、農業に対する多大の注意を生み出したように思われる。人口は土地の生産物にこれよりも早い速度で随伴した。そして過剰の人口が戦争や疾病で除去されなかった時には、それは頻々たる植民に吐け口を見出したのであった。かかる頻々たる植民の必要は、国家の小なることと相俟って、あらゆる心あるものにこの問題につき思い当らせたのであるが、これはまた当時の立法者や哲学者に、生活資料以上に増加せんとする強力な
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