妨げられるのである。
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 1)[#「1)」は縦中横]『住民の大部分は耕作者であり、彼ら自ら家畜を飼育するので、この地方では、販路は非常に小である。』――Voy. de Pallas, tom. iv. p. 4.
 2)[#「2)」は縦中横]  ここに挙げた原因に加うるに、最近私は、世界のこの地方で広大な肥沃な土地が未耕のままになっている主たる理由の一つは、蝗《いなご》の大群であり、これはある季節にこれらの地方を蔽いつくし、その被害から成長する穀物を護ることが出来ない、ということを聞いた。
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 従って、これらの国において、その人口の増加のために必要なものは、子供の出生及び養育に対する直接の奨励ではなくして、その分配の手段を促進することにより、土壌の生産物に対する有効需要を作り出すことである。このことは、製造業を導入し、そして耕作者にそれに対する趣味を喚起し、かくして国内市場を拡大することによってのみ、達成され得るものである。
 ロシアの先女帝は製造業者及び耕作者を奨励し、そしてそのいずれかに従事する外国人に、一定期間一切無利子で資本を供与した1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。この適宜な努力は、ピイタア一世の既往の業績と相俟って、当然予期せられる如く、顕著な効果を挙げた。そして数世紀の間ほとんど人口が停止しまたはせいぜいのところ極めて遅々として増加しただけで眠っていたロシアの領土、なかんずくアジア方面の領土は、近年突如として活動を開始したようである。シベリアのより[#「より」に傍点]肥沃な諸州の人口は、その土壌の豊度に比べればなお極めて不十分であるけれども、それらの中のある地方では農業は少なからず栄えており、そして多量の穀物が栽培されている。一七九六年に起った一般的の凶作の際に、イセツク州は収穫が乏しいにもかかわらず、すべての近隣諸州を飢饉の恐怖から免れしめた上に、ウラルの鋳物業者や鍛冶屋に通常通り供給することが出来た2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。またイェニセイ河流域のクラスノヤルスク地方においては、住民が怠惰で飲酒好きであるにもかかわらず、穀物は非常に豊富であり、ために一般的の凶作は今まで知られていない3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。パラスは、二百年とは古くない昔のシベリアが、全然未知の荒野であり、そして人口の点では北アメリカのほとんど沙漠のようなところにも遥かに劣っていたことを考えるならば、この地方の現状と、ロシア人が数では現住民より遥かに多くいることとに、吾々は当然驚嘆する、と云つているが4)[#「4)」は縦中横、行右小書き]、まことにその通りである。
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 1)[#「1)」は縦中横] Tooke's View of the Russian Empire, vol. ii. p. 242. かかる外国人招致の主たる結果は、おそらく、奴隷に代えての自由民、ロシア人の怠惰に代えてのドイツ人の勤労の、導入であろう。しかし機械の形での資本の導入は非常に大きな点であり、そして製造品の低廉に引かれて耕作者はまもなくそれに対する嗜好を得ることであろう。
 2)[#「2)」は縦中横] Voy. de Pallas, tom. iii. p. 10.
 3)[#「3)」は縦中横] Id. tom. iv. p. 3.
 4)[#「4)」は縦中横] Id. p. 6.
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 パラスがシベリアにいたとき、これらの肥沃な地方、特にクラスノヤルスクの附近では、食糧品は法外に安かった。一プウドすなわち四十ポンドの小麦粉は約二|片《ペニー》半で売られ、一頭の牡牛は五、六|志《シリング》、また牝牛は三、四|志《シリング》で売られた1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。土壌の生産物に対し販路が無いのによるこの異常な低廉が、おそらく勤労に対する主な妨げであった。その後数年の間に物価はかなり騰貴した2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。従って吾々は、所期の目的は著しく達せられ、そして人口が急速に増加している、と結論することが出来よう。
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 1)[#「1)」は縦中横] Voy. de Pallas, tom. iv. p. 3.
 2)[#「2)」は縦中横] Tooke's View of the Russian Empire, vol. iii. p. 239.
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 しかしながらパラスは、シベリア植民に関する女帝の意図は必ずしも常にその臣下によって十分履行されたわけではなく、そしてこのことを委ねられた資産家は、しばしば年齢、疾病、及び勤勉性の不足という点で、あらゆる点から見てこの目的に合致しない移住民を送った、と喞っている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。パラスによれば、ヴォルガ河附近の地方のドイツ移民ですら、この最後の点では欠けているというが2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]、これはたしかに最も本質的な点である。実に、勤労の習慣の輸入は、一国の人口にとり、単に数の上から考えた、男女の輸入よりも、限りなく重大なことであると云つて、間違いない。全人民の習慣を一挙に変え、そして思うがままに勤労を指導することが出来たならば、いかなる政府も外国移民を奨励するようなことをしなくとも済むであろう。しかし久しきに亙る習慣を変えるということは、すべての企ての中で最も困難なものである。シベリアの農民が英蘭《イングランド》の労働者のもつような勤労心と活動性とをもつようになるには、最も好郡合なる事情の下においても、多年の日時が経過しなければならない。そしてロシア政府はシベリアの牧畜民を農業に転向させるために不断の努力を払って来ているけれども、しかも多数のものは、彼らをその有害な懶惰《らんだ》から脱却せしめ得るあらゆる企図に対して、頑固な反抗を続けているのである3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Voy. de Pallas, tom. v. p. 5.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 253.
 3)[#「3)」は縦中横] Tooke's Russian Empire, vol. iii. p. 313.
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 右の外多数の原因が、ロシア植民地の人口が生殖力の許す限り急速に増大することを妨げている。シベリアの低地地方の一部は、沼沢が多いので不健康であり1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、そして損害の大きい大流行病が頻々と家畜を襲っている2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。ヴォルガ河附近の地方では、土壌は自然的には富んでいるけれども、しかし旱魃が頻々と起るので、三度に一度以上の豊作は滅多にない3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。サラトフの入植者は、入植後数年にして、二つの原因によって他の地方に移住せざる得なくなり、そして百万ルウブル以上に及ぶ彼らの家屋建築費の全額が、女帝から送附された4)[#「4)」は縦中横、行右小書き]。安全の目的のためかまたは便宜の目的のために、各植民地の家屋は密集して、またはほぼ密集して建てられ、各所の農場に散在することはない。その結果として村のすぐ近くではまもなく土地が足りなくなり、しかも遠方の土地は依然不完全にしか耕作されていない、ということになる。この事実をコッチェスナイアの植民地で見て、パラスは、女帝によってある部分を他の地方に移し、もって残存者をもっと楽に暮せるようにしたら好かろう、という提案をした5)[#「5)」は縦中横、行右小書き]。この提案は、自発的なこの種の分割は余り行われず、そして入植者の子供達に常に必ずしも、自ら容易に定住し新しい家族を養えるわけではないことを、証明するものの如くである。サレプタのモラヴィア教団の繁栄した植民地では、若者はその牧師の同意なくしては結婚することが出来ず、そしてその同意は一般に年をとらなければ与えられない、と云われている6)[#「6)」は縦中横、行右小書き]。従ってかかる新しい植民地においてすら、人口の増加に対する障害の中には、予防的妨げが入っていることがわかるであろう。人口は、アメリカにおける如くに、普通労働の真実価格が極めて高い場合の外は、決して急速に増加し得ないものである。そしてロシア領のこの地方の社会の状態により、またその結果たる、勤労の生産物に対する適当な販路の欠乏により、新しい植民地に通常随伴しそしてその急速な増大にとり不可欠である所の、右の如き結果は、大なる程度には現われないのである7)[#「7)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Voy. de Pallas, tom. iii. p. 16. 蕃殖力が決して十分に発揮されていない国においては、不健康な季節と伝染病とは平均人口に対してはほとんど影響を及ぼさないけれども、この点において境遇の異る新植民地においては、これらは著しくその増進を阻害する。この点は十分には理解されていない。停止的であるかまたは極めて徐々として増加しつつある国において、人口に対する上述せるすべての直接的妨げが引続き働き続けるならぱ、いかに食物が豊富でも人口を著しく増加し得ないであろう。しかし食物の豊富が生ずる間違いのない作用は、従前行われていた直接的妨げを減少せしめるということである。しかしながら、習慣を変更するの困難からか、または土壌か気候かの何らかの不利な事情かにより、依然残存するものは、引続き蕃殖力がその全幅の作用を発揮するのを阻止するであろう。
 2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 17, tom. v. p. 411.
 3)[#「3)」は縦中横] Id. tom. v. p. 252 et seq.
 4)[#「4)」は縦中横] Tooke's Russian Empire, vol. ii. p. 245.
 5)[#「5)」は縦中横] Voy. de Pallas, tom. v. p. 253.
 6)[#「6)」は縦中横] Id. p. 175.
 7)[#「7)」は縦中横] パラスの言及していない他の原因がシベリアの人口を抑制するに共働したかもしれない。一般的に云えば、私がこれまでに言及したかまたは今後述べるべき人口に対するすべての直接的妨げに関しては、次の如く云わけければならぬ。すなわち、その各々が作用する範囲と、それが全蕃殖力を害する比例とを、確かめることは、明かに不可能であるから、人口の現実の状態に関する正確な推論はこれらからア・プリオリに引き出すことは出来ない。異る二国民に行われている妨げが種類から云えば全く同一に見えても、それが程度において異るならば、その各々における増加率はもちろん全然異るであろう。従って吾々としては、物理的研究におけると同様の手順をとり、すなわちまず事実を観察し、次いで蒐集し得る最良の根拠に照してこれを説明する外はないのである。
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    第十章 トルコ領及びペルシアにおける人口に対する妨げについて

 トルコ領中のアジア方面において、人口に対する妨げ、及びその現在の減衰の原因を、族行家の記述から知ることは、困難ではなかろう。そしてトルコ人の生活様式は、ヨオロッパに住もうとアジアに住もうと、ほとんど違いはないのであるから、両者を別々に考察する必要はなかろう。
 トルコにおける人口が、領土の面積に比較して低位にある根本的原因は、疑いもなく、政府の性質にある。その専制、その弱体、その悪法とこれが悪運用は、その結果たる財産の不安固と相俟って、農業の途上に大きな障害を与えるので、その結果として生活資料は必然的に年々減少し、それと共にもちろん人口も年々減少しつつある。ミリすなわちサルタンに支払う一般地租は、それ自身としては穏当なものである1)[#「1)」は縦中
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