=C vol. ii. p. 252, 253.
[#ここで字下げ終わり]
 シベリアの北部地方全部を通じて、天然痘が蔓延している。ドゥ・レセップ氏によれば、カムチャッカでは、それは原住民の四分の三1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]の生命を奪った。
[#ここから2字下げ]
 1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. i. p. 128.
[#ここで字下げ終わり]
 パラスはこの記述を確認し、そして、ほとんど同様な生活をしているオビ河畔のオスチャック族のことを述べる際に、この病気は彼らの間に恐るべく猖獗しており、そして彼らの増加に対する主たる妨げと考え得ようと云っている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。これらの人民の間における天然痘の異常な死亡率は当然に、彼らの地下住居の極度の熱さ、不潔、及び腐敗した空気によって説明ができる。オスチャック族の家族は三つか四つ一緒に一つの小屋の中に群居しているが、彼らの生活様式ほど胸の悪くなるものはあり得ない。彼らは決して手を洗わず、また魚の腐った残物や子供の糞便を決して掃除しない。パラスは云う、この記述から推せば、彼らの小屋《コルト》の悪臭や毒気や湿気がいかなるものであるかは、容易に察知し得よう、と2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。彼らは多くの子供をもつことは滅多にない。一家族に三、四人を見ることは稀であるが、パラスが与えているその理由は、非常に多くのものが栄養不良で年若く死んでしまうということである3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。このほかになお、おそらく、確かに女子の生殖力を害するところの、彼らの悲惨な苦しい隷従状態も4)[#「4)」は縦中横、行右小書き]、挙げなければならぬであろう。
[#ここから2字下げ]
 1)[#「1)」は縦中横] Voy. de Pallas, tom. iv. p. 68. 4to. 5 vols. 1788, Paris.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 60.
 3)[#「3)」は縦中横] Id. p. 72.
 4)[#「4)」は縦中横] Id. p. 60.
[#ここで字下げ終わり]
 パラスは、サモイエド族は、冬の期間オスチャック族よりも多く活動するから、それほどは汚くないと考えている。しかし彼は、彼らの女子の状態は、いっそう悲惨な苦しい隷従であると述べている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。従ってこの原因より生ずる人口に対する妨げは、オスチャック族よりも大であるはずである。
[#ここから2字下げ]
 1)[#「1)」は縦中横] Voy. de Pallas, tom. iv. p. 5.
[#ここで字下げ終わり]
 かかる冷酷な地方の原住民の大部分は、ほとんど同様な悲惨な生活をしているのであるから、従ってそれを述べてみたところで徒らに反復に過ぎないであろう。右に述べたところからして、吾々は、これらの荒蕪の地方が与える乏しい生活資料の水準に現実の人口を圧迫している主たる妨げがどんなものであるかを、十分察知することが出来よう。
 シベリア南部のある地方及びヴォルガ河の流域では、土壌は極めて肥沃であるとロシア旅行家は述べている。それは一般に、施肥の必要がないほど、またはむしろ施肥に堪えないほど肥えた、黒土から成っている。肥料は単に穀物を繁茂させすぎるだけのことであり、それを地に倒して腐らしてしまうだけのことである。この種の土地の唯一の沃度恢復法は、それを三年に一度ずつ休耕地とすることである。そしてこの方法を行っていけば、地味は無尽蔵という土地もある1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。しかも、このように最も豊富な生活資料が得られそうに思われる便宜がありながら、これらの地方の多くは人口稀薄であり、そしてそのいずれにおいても、おそらく、人口は、土壌の性質から期待され得るようには増加しないのである。
[#ここから2字下げ]
 1)[#「1)」は縦中横] Voy. de Pallas, tom. iv. p. 5.
[#ここで字下げ終わり]
 かかる国は、サア・ジェイムズ・スチュワアトがうまく説明しているところの、道徳的増加不可能の下にあるように思われる1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。もし政治の性質かまたは人民の習慣の上からして、新しい農場の開拓または旧い農場の分割に対し障害が存する場合には、社会の一部分は、明白な豊饒の真ただ中においてすら、欠乏に悩むであろう。一国が豊富に食物を生産する力を有つというだけでは十分でなく、社会の状態が、その適当な分配の手段を与えるが如きものでなければならない。そして何故にこれらの国において人口増加がおそいかという理由は、労働に対する需要が小であるため土壌の生産物の分配を妨げられるという事実であり、そしてこの生産物の分配なるものは、土地の分割が依然同一であっても、それのみで、社会の下層階級をしてその土地が与える豊かな産物の享受者たらしめ得るものである。農法は極めて簡単であり、ほとんど労働者を必要としないと云われている。ある所では種子が単に休耕地に散布されるだけである2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。蕎麦が普通の作物であり、そしてそれは極めてまばらに蒔かれるが、しかし一度蒔けば五、六年間も持ち、そして毎年最初の二十倍または十五倍もの収穫を産する。収穫時に落ちる種子で翌年には十分であり、そして春に一度|耙《ならしぐわ》で均《な》らす必要があるだけである。そしてこれは土壌の肥沃度が減退し始めるまで継続される。シベリア平原の怠惰な住民にこれほど適当した穀作はないと云われているが3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]、これはもっともなことである。
[#ここから2字下げ]
 1)[#「1)」は縦中横] Polit. Econ. b. i. c. v. p. 30. 4to.
 2)[#「2)」は縦中横] Voy. de Pallas, tom. i. p. 250.
 3)[#「3)」は縦中横] 〔De'couv. Russ. vol. iv. p. 329. 8vo. 4 vols. Berne.〕
[#ここで字下げ終わり]
 農業組織はかくの通りであり、また工業はほとんどまたは全く無いので、労働に対する需要は極めて容易に充足されるに違いない。穀物は疑いもなく極めて低廉であろうが、労働はそれとの比例で更に低廉であろう。農業者は自分自身の子供達には十分な分量の食物を与え得るかもしれぬが、しかし彼れの労働者の労賃は家族を楽々と養うには足りないであろう。
 もし土壌の肥沃度に比較して人口が不足しているのを見て、吾々が、子供に奨励金を与え、かくして労働者をしてより[#「より」に傍点]多くの家族を養い得るようにして、この事態を改善せんとしたとすれば、その結果はどうであろうか。かくの如くして市揚に齎される過剰の労働者の仕事を、何人も要求しはしないであろう。たとえ一人一日のたっぷりの食糧が一ペンスで買い得るとしても、これらのものにその労働に対して一ファージングすら支払おうとするものはないであろう。農業者は、自分自身の家族と、従来使用していた一、二人の労働者によって、彼れの希望する一切を、彼が土壌の耕作に必要と考える一切を、することが出来る。従ってこれらのものは、農業者にその欲するものを何も与えないのであるから、単に彼らに無償で食物を与えるために、農業者がその性来の怠惰心を克服し、そしていっそう大きいいっそう骨の折れる仕事をするようになるとは期待し得ない。かかる事態において、工業労働に対する非常に小さな需要が充足された時には、他の人々はどうすべきであろうか。彼らは実際、あたかも不毛の沙漠に住んでいるのと同様に、全く生活資料がないのである。彼らはその仕事が需要されるある場所に移住するか、または貧困の極《きわみ》窮死するかしかない。かれらの労働がわずかにまたほんの時々使用される結果として、彼らに乏しい生活資料が与えられ、これによってかかるとことんまでおちるのを免れたとしても、彼ら自身は生存し得るかもしれぬが、結婚して人口を増加し続ける能力のないことは、明かである。
 もしヨオロッパの最もよく耕作されかつ最も人口稠密な国に現在の土地と農場の分割が行われており、しかも商工業がこれに伴っていなかったとしたならば、より[#「より」に傍点]以上の耕作に対する動因が全然欠けており、従って労働の需要がないために、人口は久しい以前に停止してしまっていたことであろう。そしてここで考察している国の過度の肥沃度が、この困難を減少するよりはむしろ加重するものなることは、明かである。
 もし使用されない多くの良い土地があるならば、アメリカの場合の如くに、新しい定住と分割とがもちろん行われ、そして過剰人口はそれ自身の食物を作り出し、それに対する需要を生ぜしめるであろう、とおそらく云うものがあるかもしれない。
 疑いもなく、好郡合な事情の下においてはそうなるであろう。すなわち例えばもし、第一に、穀物と同じく他のすべての資本の原料を提供する如き性質を士地が有つならば、第二に、かかる土地が小口で買うことが出来、また財産が自由政府の下で保証されているならば、そして第三に、勤労と蓄積との習慣が人民大衆の間に広く行われているならば、というのがそれである。以上の条件のいずれかが欠けているならば、人口の増加は本質的に妨げられ、または全然停止されるであろう。最も豊かな穀作に堪える土地でも、樹木と水がないために、広大な一般的な定住に全く適しないということもあろう。もし農地借地権が不確実であるかまたは悪化しているならば、個人の蓄積は最も心が進まず遅々として行われるものとなろう。そしていかなる生産の便宜、根強い怠惰の習慣と先見の不足の下においては、生活必要品の永久的な増加と適当な分配を齎らし得ないであろう。
 ここに挙げた好都合な事情なるものが、シベリアには併存していないことは明かである。地質の上で克服しなければならぬ物理的欠点は何もないと仮定してさえも、人口の急速な増加の途上にある政治的及び道徳的障害は、極めて徐々としてしか、善導せられたる努力によって打克ち得るにすぎない。アメリカにおいては、農業資本の急速な増加は、普通労働の労賃の高いのに負うところが多い。元気な青年が奥地で自分自身の植栽地を開始するには、少くとも三四十ポンドの金を自由にし得ることが必要と考えられている。これくらいの金額は、労働に対する需要が大であり、それが高い率で支払われているアメリカでは、大した困難なく数年にして貯え得よう。しかしシベリアの過剰の労働者は、家を建て、家畜や農具を買い、そして彼れの新しい土地を整理して適当な収穫を挙げ得るに至るまで生活して行くに、必要な金額を、集めることは極めて困難であろう。農業者の子供ですら、成長の暁、これらの資金を調達するのは容易ではないであろう。穀物に対する市場が極度に狭く、その価格が非常に低い社会状態においては、耕作者は常に貧しい。そして彼らは簡素な食物でその家族を十分に養い得るかもしれないけれども、その子供らに分ちそして彼らをして新しい土地の耕作をなすを得せしめるべき、資本を作ることは出来ない。この必要資本は極めて小で足るとしても、この小額を農業者はおそらく獲得し得ないのである。けだし彼が通常以上の量の穀物を作ればその購買者を見出し得ず1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、そしてそれを、将来その子供のいずれかをしてそれを等しい生活資料または労働を支配し得せしめるべき何らかの永久的物品に転換することを得ないからである2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。従って彼はしばしば、彼れの家族の直接の需要とそのなじみの狭い市湯を満すに足るだけのものを、栽培するだけで満足している。そしてもし彼が大家族を有つとすれば、彼れの子供の多くはおそらく労働者の地位に落伍し、そして前述の労働者の場合と同様に、彼らのそれ以上の増加は生活資料の不足によって
前へ 次へ
全39ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
吉田 秀夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング