#「1)」は縦中横] Id. vol. i. c. xi. p. 280.
[#ここで字下げ終わり]
ブルウスによれば、あらゆる種類の食料は極めて低廉であり、人間の常食たる土地の果実が自生であるところの、アラビア・フェリックスにおいては、多数の妻を有ってもその費用は同数の奴隷または使用人を有つ費用と同じだけのことである。彼らの食物は同じであり、彼ら全部に共通な青い木綿のシャツは、誰のでも値段は同じくらいである。その結果として、彼によれば、女子の独身は抑止され、そして人口は、一夫多妻によって、一夫一婦の四倍の比率で増加する1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。しかもなおこの四倍の増加にもかかわらず、アラビアのいかなる地方も真に極めて人口稠密であるとは思われないのである。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. i. c. xi. p. 281.
[#ここで字下げ終わり]
一夫多妻の結果として、既婚女子の数が増加し、独身が抑止されるということは、議論の余地のないところである。しかしこれがどれだけ現実の人口を増加する傾向があるかということは、これとは極めて異る問題である。それはおそらく人口を食物の限界により[#「より」に傍点]緊密に圧迫し続けるであろうが、しかしこれがもたらすどうにもならぬ極貧は、決して勤労に対し好都合なものではない。そして病気を醸成する多くの原因があるように思われる気候においては、この困窮の状態がこれらの地方のあるものに見られる異常の死亡を有力に助勢していないと考えることは困難である。
ブルウスによれば、スエズからバブエルマンデルに至る紅梅の沿岸全体は極度に不健康で、殊に南北囘帰線間は甚だしい。この地方でネダドと呼ばれている猛烈な熱病は致命的な疾病の中で主たるものであり、そして一般に三日目に死亡する1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。異国人はこの地方に到着しすぐ見受ける高い死亡を見ただけで、恐怖にとらわれるのである。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. iii. p. 33.
[#ここで字下げ終わり]
ジッダ及び紅梅の東海岸に接するアラビアのあらゆる地方は、同様に極めて不健康である1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. i. p. 279.
[#ここで字下げ終わり]
ゴンダアルにおいては、熱病が常に流行しており、そして住民はすべて屍体の色をしている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. iii. p. 178.
[#ここで字下げ終わり]
世界中で最も美しい地方の一つであるシレでは、最悪性の発疹チフスがほとんど絶えることがない1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。アビシニアの低地においては、一般に、悪性の間歇熱が大きな死亡を出している2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。そしてあらゆる地方で天然痘は猖獗を極め、なかんずくアビシニアに接する辺境地方において甚だしく、そこでは時にそれは全種族を全滅させるのである3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. iii. p. 153.
2)[#「2)」は縦中横] Id. vol. iv. p. 22.
3)[#「3)」は縦中横] Id. vol. iii. c. iii. p. 68; c. vii. p. 178; vol. i. c. xiii. p. 353.
[#ここで字下げ終わり]
貧困が、粗悪な食物、及びそれとほとんど常に伴う不潔と相俟って、悪性の疾病を加重することは、人のよく知るところであるが、この種の悲惨は一般に広く存在しているようである。ゴンダアルに近いチャガッサについて、ブルウスは、その住民は、三倍の収穫があるにもかかわらずひどく貧乏である、と云っている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。彼はまたチグレの首府アドワでも同じことを述べ、そしてこれをアビシニアの農民全体にあてはめている。土地は毎年最高の入札者に貸付けられ、そして一般に地主は種子を与え、生産物の半ばを受取る。しかし自己の冒す危険に対しその上四分の一を受取らない地主は寛大な地主だと云われている。従って耕作者の取分となる分量は、そのみじめな家族が辛うじて暮して行くに足る以上ではないのである2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. iii. c. vii. p. 195.
2)[#「2)」は縦中横] Id. c. v. p. 124.
[#ここで字下げ終わり]
数の点ではアビシニアで最も有力な民族の一つたるアゴウ族は、ほとんど信じられないような窮乏と貧困の状態に生活している、とブルウスは述べている。彼は云う、吾々は人間とは思えぬほど皺がより陽に焼けた多くの女が、炎天の下で、背中に一人または時には二人の子供を背負って、一種のパンを作るためにみやまぬかぼの種子を集めながらうろついているのを見かけた1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。アゴウ族の女は十一歳で子供を産みはじめる。彼らは大体その年頃で結婚するが、彼らの間に不姙というようなことは知られていない2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。アビシニアの国境都市の一つたるディクサンにおいては、唯一の取引は子供を売ることである。毎年五百人がアラビアに輸出され、そして欠乏の年にはその四倍くらいに上る、とブルウスは云っている3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. iii. c. xix. p. 738.
2)[#「2)」は縦中横] Id. c. xix. p. 739.
3)[#「3)」は縦中横] Id. c. iii. p. 88.
[#ここで字下げ終わり]
アビシニアでは一夫多妻は規則的には行われていない。ブルウスは実際この点については妙なことを云っている。すなわち彼は云う、吾々はジェスイット僧が結婚や一夫多妻についていろいろなことを書いたのを読んでいるが、しかしアビシニアには結婚というが如きものはない、ということほど確かに断言しうるものはない、と。しかしそれがどうであろうと1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、この国には独身生活を送る女はほとんどまたは全くなく、またそれが乱交によって妨げられる場合の外は生殖力はほとんどその全力を発揮せしめられていることは、明かなようである。しかしながらこの乱交は、ブルウスの記述している風習の状態からすれば、非常に有力に作用しているに違いない2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. iii. c. xi. p. 306.
2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 292.
[#ここで字下げ終わり]
戦争から生ずる人口に対する妨げは法外なものであるように思われる。最近四百年の間、ブルウスによれば、戦争はこの不幸な国を荒廃に委ねることを止めたことはなかった1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。しかもその戦争はひどく野蛮に行われるので、この破壊は十倍にもなった。ブルウスがはじめてアビシニアに入国したとき、彼は、到るところに、ラス・マイクルのゴンダアル進軍によって根こそざに破壊された村々を見た2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。彼は曰く、彼がこの国に滞在中の内乱で、『叛徒はまずデムビアを荒廃に帰しはじめており、そして南方から西方に至る平原にある一切の村を焼き払い、それをマイクルとファシル間の沙漠のようしてしまった。………王はしばしばその宮殿の塔の頂上に登り、デムビアにおけるその豊かな村々が焼けているのを見て、不満の極であつた。』と3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。彼はまた他の場所で曰く、『デグウェッサの全地方は完全に破壊された。老若男女の区別なく男も女も子供も全部皆殺しになった。家は地に倒され、その附近の国土は大洪水の後のように荒廃してしまった。王に属する村々も同じく苛酷に荒された。到る処から救を求める叫びが聞えてきたが、誰もあえて救助手段を講ずる者はなかった4)[#「4)」は縦中横、行右小書き]。』アビシニアの一州たるマイッチャにおいては、もしいやしくも老人に会うことがあったらそれは確かに、他国人と見てよいが、けだし一切の原住民は若いうちに槍で死んでしまったから、と彼は聞かされた5)[#「5)」は縦中横、行右小書き]。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. iv. p. 119.
2)[#「2)」は縦中横] Id. vol. iii. c. vii. p. 192.
3)[#「3)」は縦中横] Id. vol. iv. c. v. p. 112.
4)[#「4)」は縦中横] Id. vol. iv. p. 258.
5)[#「5)」は縦中横] Id. c. i. p. 14.
[#ここで字下げ終わり]
もしブルウスの画いたアビシニアの状態の描写が、少しでも真に近いものとすれば、それは、戦争、流行病、及び乱交が、すべて過度に働いている下でも、人口を生活資料の水準一杯に保持せしめるところの、人口増加の原理の力を、極めて明白に物語るものである。
アビシニアに隣接する諸民族は一般に短命である。二十二歳のシャンガラの女は、ブルウスによれば、六十歳のヨオロッパの女子よりも、皺が多くかつ老いぼれている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。従って、これらすべての国においては、絶えず移住していた時代の北方の牧畜民族と同様に、極めて急速な人間の新陳代謝が行われていることが、わかるであろう。そして両方の場合の相違は、吾々の北方の祖先は自国外で死んだが、しかるにこれらは故国で死んだという点である。もしこれらの諸民族の間に正確な死亡表がとられていたならば、それは、ヨオロッパ諸国を平均して三四、三六、または四〇人につき一人という比率とは異り、戦死者をも含めて、少くとも一七または一八人につき一人が年々死亡することがわかるであろうことを、私はほとんど疑わないのである。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. ii. p. 559.
[#ここで字下げ終わり]
ブルウスが帰国の途中通過した国のある地方について述べているところは、アビシニアの状態よりも恐ろしい情景を呈しており、そして人口が、食物の生産と、この生産物に影響を及ぼす自然的並びに政治的事情に比較して、子供の出産にはいかに依存しないものであるかを、示すものである。
ブルウスは曰く、『六時半に、吾々は、ガリガナに着いたが、これはその住民がすべて前年に餓死してしまった村である。彼らのあわれな骨はすべて葬られもせず、前に村のあった場所に散らばっていた。吾々は死者の骨の間に野営した。どこも骨のない所は見出し得なかった1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』と。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. iv. p. 349.
[#ここで字下げ終わり]
彼はその途上のもう一つの町または村について曰く、『ティアワの勢力は馬二五頭であった。爾余《じよ》の住民は、村々の爾余のものと同様に、裸かの惨めな卑しい一、二〇〇人のアラビア人だったらしい。………これがティアワの状態であった。しかしこの状態が続いたのも、ダヴェイナ・アラビア人がこれを攻撃する決心をし、穀物畑が一夜にして多数の乗馬隊によって焼き払われ破壊され、その住民の骨がガリガナのあわれな村の骨と同じく地上に散らばっているのがその唯一の名残りであるというような状態に、なるまでのことでし
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