驍スめに必要なものは止めておいて、その他は売ってしまう2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。サアカシアン韃靼族及びダゲスタン韃靼族、その他コオカサス附近の種族は、貧弱な山地に住み、そのために侵略を受けることが少いので、一般に住民に充ち溢れている。そして彼らが普通の方法で奴隷を手に入れ得ない時は、互いに盗み合い、彼ら自身の妻子を売ったりさえする3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。囘教韃靼人の間でかくも一般的なこの奴隷売買は彼らの不断の戦争の原因の一つであろう。けだし、この種の取引に対し豊かな供給が得られる見込のある時には、平和も同盟も彼らを抑制し得ないからである4)[#「4)」は縦中横、行右小書き]。
[#ここから2字下げ]
 1)[#「1)」は縦中横] Geneal. Hist. Tart. vol. ii. p. 412.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 413.
 3)[#「3)」は縦中横] Id. p. 413, 414, and ch. xii.
 4)[#「4)」は縦中横]『彼らは多数の妻を有つことを合法的と是認するが、けだし彼らは多数の子供をもたらし、それを吾々は即金で売りまたは必要な便宜品と交換することが出来るからである、と彼らは云う。しかも彼らがそれを養う資力がない時には、生れたばかりの嬰児を殺すのは一片の慈善である、と彼らは主張する。同様に彼らは病気で囘復の見込のないものも殺すが、けだし彼らの云うところによればこれは彼らを大きな窮乏から免れしめるのである、と。』Sir John Chardin's Travels, Harris's Col. b. iii. c. ii. p. 865.
[#ここで字下げ終わり]
 異教韃靼人、カルマック族、及び蒙古人は、奴隷を使用せず、そして一般により[#「より」に傍点]平和な無害な生活を送り、彼らの唯一の富を成す家畜と家禽の生産物で満足している、と云われている。彼らは掠奪のために戦争をすることは滅多にない。そして以前の攻撃に対する復讐をする場合以外には、その隣人の領土に滅多に侵入しない。しかしながら彼らには破壊的戦争がないわけではない。囘教韃靼人の侵入が、彼らをして、不断の防禦と復讐とを余儀なからしめる。そしてカルマック族と蒙古人の近親種族の間には争闘が存在しているが、これは支那の皇帝の巧妙な政策に煽動されて、これら諸民族のいずれかが全滅に瀕するほどの敵意をもって、行われているのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
[#ここから2字下げ]
 1)[#「1)」は縦中横] Geneal. Hist. Tart. vol. ii. p. 545.
[#ここで字下げ終わり]
 アラビア及びシリアのベドウィーン族は、大韃靼の住民よりも安穏には生活していない。牧畜状態の性質そのものが戦争に対する不断の機会を与えるように思われる。ある時期に一種族が用いる牧場はその所有地の一小部分でしかない。一年の間に広大なる領土が相次いで占有される。そしてこの全体はその種族の年々の生活資料を得るために絶対に必要なのであり、そして所領と考えられているから、それをちょっとでも侵害すれば、たとえ種族が非常な遠隔地にいても、正当な戦争理由であると主張される1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。同盟と近親関係とがこれらの戦争をより[#「より」に傍点]一般的ならしめる。流血を見れば、それを贖うには、より[#「より」に傍点]多くの血をもってしなければならぬ。そして年を経るにつれてかかる事件は増加したので、種族の大部分は互に争っており、永久的敵対状態に暮している2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。マホメット以前の時代に、千七百囘の戦闘が伝説に記録されている。そして、宗教的に守られた二ヵ月の部分的休戦は、ギボンが正しくも述べている所によれば、彼らの無政府及び戦争の一般的習慣を更にいっそう明かにするものと考えらるべきであろう3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。
[#ここから2字下げ]
 1)[#「1)」は縦中横]『吾々の場合に市民が遺産を争うのと同様に、彼らは互に未耕地を争うであろう。かくて彼らの家禽の飼料などに関し頻々たる戦争の機会を見出すであろう。………彼らは民法によって解決すべき事件が少なければ少ないほど国際法によって判決すべき事件が多いであろう。』Montes. Esprit des Loix, l. xviii. c. xii.
 2)[#「2)」は縦中横] Voy. de Volney, tom. i. c. xxii. p. 361, 362, 363.
 3)[#「3)」は縦中横] Gibbon, vol. ix. c. 1. p. 238, 239.
[#ここで字下げ終わり]
 かかる習慣から生ずる生命の濫費は、それだけで彼らの人口を抑圧するに足ることが分る。しかしそれがあらゆる種類の勤労、なかんずく生活資料の増大を目的とするそれに、与える致命的妨げにおいては、それがもたらす影響は更により[#「より」に傍点]大である。一つの井戸、一つの貯水池の建設にすら、ある資金と労働が前もって必要である。そして戦争は一日にして数ヶ月の労作と丸一年の資源を破壊し得よう1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。この両害悪は交互に他を作り合うように見える。すなわち生活資料の不足はまずおそらく戦争の習慣を生み出し、そして戦争の習慣は今度は生活資料を狭める有力な働きをするのである。
[#ここから2字下げ]
 1)[#「1)」は縦中横] Voy. de Volney, tom. i. c. xxiii. p. 353.
[#ここで字下げ終わり]
 ある種族は、彼らが住んでいる沙漠の性質から、必然的に牧畜生活に運命づけられているように見える1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。しかし農業に適する土地に住むものも、掠奪的隣人に囲まれている間は、この業を行う気にはほとんどなれない。シリア、ペルシア及びシベリアの辺境地方の農民は、現に、破壊的な敵の不断の侵入に曝されていて、浮浪的韃靼人またはアラビア人から羨まれるような生活はしていない。牧畜状態から農業状態への変化を助勢するには、おそらく、土壌の肥沃なことよりも、ある程度の安固が更により[#「より」に傍点]必要なのである。そしてこの安固が達せられ得ない処では、定住労働者は、放浪生活を送り従って全財産を携帯している者よりも、運命の転変により[#「より」に傍点]多く曝されている2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。トルコ人の弱体な、しかも圧制的な政府の下では、農民にとっては、彼らの村落を去って牧畜状態に身を委ね、この状態で支配者たるトルコ人と隣人たるアラビア人の掠奪を免れる能力を増そうと期待するのは、珍しいことではない3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。
[#ここから2字下げ]
 1)[#「1)」は縦中横] Voy. de Volney, tom. i. c. xxxiii. p. 350.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 354.
 3)[#「3)」は縦中横] Id. p. 350.
[#ここで字下げ終わり]
 しかしながら、狩猟民族と同様に牧畜民族についても、もし欠乏だけで習慣が一変し得るものなら、牧畜民族で残存しているものはほとんどないだろうと云い得よう。ベドウィーン・アラビア人は絶えず戦争をしており、またその生活方式の困難から生ずるその増殖に対するその他の妨げがあるにもかかわらず、その人口は、その食物の限界を著しく緊密に圧迫しており、ために彼らは必要上節欲を余儀なくされておるが、この節欲たるや、古くからの不断の習慣がなければ到底人体が支え得ぬ如きものである。ヴォルネエによれば、アラビア人の下層社会は習慣的な窮乏と飢饉の状態に生活している1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。沙漠の諸種族はマホメットの宗教が彼らのためにつくられたことを否定する。彼らは曰く『けだし吾々は水のない時にどうして水浴をすることが出来ようか。吾々は富を有たないのにどうして喜捨をすることが出来ようか。また吾々は一年中断食しているのに、どうしてラマダン月の間断食をする機会があり得ようか2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。』
[#ここから2字下げ]
 1)[#「1)」は縦中横] Voy. de Volney, tom. i. c. xxiii. p. 359.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 380.
[#ここで字下げ終わり]
 チャイクの力と富とは、その種族の数にある。従って彼はそれがいかにして養われ得べきかを考えることなくして、人口の増加を奨励するのを利益と考えている。彼自身の地位は大いに子孫と近親の数の多いことに依存している1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。そして一般に力が食物を獲得するという社会状態においては、個々の各家族は家族の人数から力と重要性とを得ることとなる。かかる観念は、有力に、人口増加に対する奨励金たる作用をする。そしてそれは、ほとんど財貨の共有を生じているほどの物惜しみしない精神2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]と相俟って、人口をその極点まで押し進め、そして人民全体を最もはげしい貧困に陥れるのである。
[#ここから2字下げ]
 1)[#「1)」は縦中横] Voy. de Volney, tom. i. c. xxiii. p. 380.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 366.
[#ここで字下げ終わり]
 一夫多妻の習慣は、戦争で人命が失われた場合には、おそらく同じ結果を生み出す傾向があろう。ニイブウルは、一夫多妻はその分家の多くが最も悲惨な窮乏に沈淪するまで、家族を増殖させると云っている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。マホメットの子孫は東方全体に亙って極めて多数に見出されるが、その多くは極貧の中にある。囘教徒は、人間の最大の義務の一つは造物主に栄光あらしめるため子供を産むにあるとするその予言者の教えを遵奉して、ある程度まで一夫多妻を余儀なくされている。幸にも、他の多くの場合と同様に、個人的利害がある程度立法者の不合理を是正している。そして貧乏なアラビア人は彼れの信仰をその資産の貧しさに比例せしめるを余儀なくされている。しかしなお、人口増加に対する直接的奨励は異常に大であり、そしてかかる奨励の無効であり、不合理であることは、これら諸国の現状が最も雄弁にこれを物語っている。彼らの人口が以前より少なくないとしても、疑いもなく多くはないことはあまねく認められているところであり、そしてこのことの直接の結果として、ある家族の大きな増加は、他の家族を絶対に滅してしまったのだ、ということになる。ギボンはアラビアを論じて曰く、『人口の尺度は生活資料によって左右される。この広大な半島の住民は、数において、肥沃な勤勉な一州の住民に及ばなくなることもあろう2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。』結婚に対する奨励がいかなるものであろうと、この尺度を超えることは出来ない。アラビア人が現在の風習を保持し、そしてこの国が現在の耕作状態に止まる間は、十人の子供を有つあらゆる者に楽園の約束をしたところで、それらは彼らの窮乏は大いに増加しはしようが、彼らの人口を増加することはほとんどないであろう。人口に対する直接的奨励は、かかる風習を変化し耕作を促進する傾向を全然有たない。実際おそらくそれは反対の傾向を有つ。けだしそれがもたらす貧困と欠乏から生ずる不断の不安は、掠奪的精神を奨励し3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]、戦争の機会を増加するに違いないからである。
[#ここから2字下げ]
 1)[#「1)」は縦中横] Niebuhr's Travels, vol. ii. c. v. p. 207.
 2)[#「2)」は縦中横] かくまで多数の著者が述べかつ認めているかくも重要な真理が、その帰結まで滅多につきつめられた
前へ 次へ
全39ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
吉田 秀夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング