フ外はほとんど彼らの手には渡らなかった。キャプテン・クックは曰く、『彼らがあらゆる種類の食糧を極めて注意深く取扱い、そして人間の食い得る物は、なかんずく肉と魚は、少しも無駄にしないことを、認めなければならない2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。』
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1)[#「1)」は縦中横] Cook's Third Voyage, vol. ii. p. 153, 154.
2)[#「2)」は縦中横] Id. Second Voy. vol. i. p. 176.
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アンダスン氏の述べているところによれば、動物性食物は極めて少量しか下層階級のものの手に入らず、しかもそれですら、魚かうにかその他の海産物かである。けだし彼らはほとんどまたは全く豚肉は食わないから。王か主だった酋長だけがこの贅沢を毎日することが出来るのであり、下位の酋長は、その富に応じて、一週か二週か月に一|囘《かい》ずつである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。犬や鶏が戦争や過度の消費によって減少すると、これらの食品に禁令が下され、これは時に数ヵ月または一、二年も施行され、そしてこの期間にこれらは非常に急速に増加し再び豊富になるのである2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。この諸島の重だった人民に属するエアリイオイのものの普通食事でさえ、アンダスン氏によれば、少くとも十分の九は植物性食物からなる3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。そして階級差別が非常に強く定められ、下層階級の人民の生命と財産とが絶対に酋長の意思に依存しているらしいのであるから、これらの酋長がしばしば豊かに暮しているのに、その臣下や僕婢は欠乏に悩むということは、吾々の十分に想像し得るところであろう。
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1)[#「1)」は縦中横] Cook's Third Voy. vol. ii. p. 154.
2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 155.
3)[#「3)」は縦中横] Id. p. 148.
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伝道航海記にあるオウタハイトに関する最近の記録によれば、上記の人口減少の原因は、キャプテン・クックの最後の訪問以来、極めて異常な力をもって働いていることがわかるであろう。この期間一時の間、破壊的な戦争が引続いて頻々と起ったことは、キャプテン・ヴァンクウヴァがその間にここを訪問した際注意を引いている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。そして伝道師によれば、女の割合が小さいとあるから2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]、女児が前より数多く殺されたものと推論し得よう。この女の少いことは当然に乱交の悪弊を増加し、そしてヨオロッパの疾病と相俟って、人口に根本的な打撃を加えることであろう3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Vancouver's Voy. vol. i. b. i. c. 7. p. 137.
2)[#「2)」は縦中横] Missionary Voyage, p. 192 and 385.
3)[#「3)」は縦中横] Id. Appen. p. 347.
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おそらくキャプテン・クックはその計算の基礎たる資料によって、オウタハイトの人口を過大に見積り、またたぶん伝道師達はそれを過度に低く見積ったのかもしれない1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。しかし私は、相異る時代の、人民の経済に関する習慣についての相異る記述からして、キャプテン・クックの訪問以来、人口が著しく減少したことを疑わない。キャプテン・クック及びアンダスン氏は、彼らがあらゆる種類の食物に対して非常に注意深いことを一致して述べている。そしてアンダスン氏は、明かにこの点に関する非常に綿密な調査の後、飢饉が頻々と囘起することを述べている。伝道師達は反対に、フレンドリ諸島及びマアクイサス諸島におけるこの原因による困窮は力説しているけれども、オウタハイトの生産物は最も豊富であると云い、そして祝宴やエアリイオイ社によって恐ろしい浪費が行われるにもかかわらず、欠乏は滅多にない、と云っている2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Missionary Voyage, ch. xiii. p. 212.
2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 195. Appen. p. 385.
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これらの記述によれば、オウタハイト島の人口は現在、平均的生活資料よりも著しく下に圧迫されていることがわかるが、しかし将来久しくこれが続くであろうと結論するのは早計である。キャプテン・クックがたびたびここを訪問した際に認めたこの島の状態の変動は、その繁栄と人口とにおいて顕著な擺動があることを証明するように思われる1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。そしてこれは吾々が理論上まさに想定すべきことなのである。吾々は、これらの島のいずれかの人口が過去久しく一定の数に停止していたとか、またはいかに徐々たるものであろうと何らかの比率で規則的に増加し得たとは、想像することが出来ない。大きな変動が必ずあったに相違ない。人口過剰は常に蒙昧人の生来の戦争癖を増大するであろう。そしてこの種の侵害によって惹き起された敵意は、それを促した本来の故障が消滅して後も、久しきに亙って引続き荒廃の手を拡げるであろう2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。以前には非常な節約をして生活し、そして食物の限界を緊密に圧迫していた、密集人口が、一度か二度不作により困窮に陥る時には、かかる社会状態においては、殺児や乱交3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]がいっそう甚しく広がることであろう。そしてこれらの人口減少の原因は、同様に、これらを悪化させた事情が終了してから後もしばらくは加速度で働き続けるであろう。事情の変化によって徐々として生み出されるある程度の習慣の変化は、まもなく人口を旧に復せしめ、そしてこの人口は、最も甚しい暴威なくしては、久しくその自然的水準に保たれ得ないであろう。ヨオロッパ人との接触がオウタハイトにおいて、どれだけこの最も甚しい暴威をもって働き、そしてそれが以前の人口に囘復するのを妨げたかは、経験のみがこれを決定し得ることである。しかしこれが事実であるとすれば、私は、その原因を辿ってみれば、それが罪悪及び窮乏の加重であることを見出すのを、疑わないのである。
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1)[#「1)」は縦中横] Cook's Second Voy. vol. i. p. 182, and seq. and 346.
2)[#「2)」は縦中横] Missionary Voy. p. 225.
3)[#「3)」は縦中横] 私は、これらの過剰人口の予防的原因について誤解をうけて、ただその結果を述べたからといってそれを少しでも是認したものと、考えてもらいたくない。ある特定の害悪を防止すべき原因でも、その害悪そのものよりも比較にならぬほど悪いものもあり得よう。
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太平洋における他の島々に関しては、吾々はオウタハイトほど詳しい知識を有たない。しかし吾々の有っている知識だけによっても、その主な群島のすべてにおける社会状態が多くの点において著しく似ていることを、確信することが出来る。フレンドリ諸島及びサンドウィッチ諸島の土人の間には、オウタハイトと同じ封建制度と封建的紛乱が、同じ酋長の異常な権力と下層社会の窮情が、そしてまたほとんど同じ人民大部分の間の乱交が、広く存在していることが見出されているのである。
フレンドリ諸島においては、王の権力は無限であり、人民の生命財産は彼れの意のままであると云われているが、小主権者のような行動をする他の諸酋長が存在し、王のやり方を邪魔するので、王はしばしばこれを喞《かこ》っていた。『しかしいかに』(とキャプテン・クックは云う)『この有力者が王の専制的権力から独立しているとはいえ、吾々は、下層階級の人民が、各自その属する酋長の意のままになる外には、何らの財産も身体の安全も有たないということを証明するに足る事例を吾々は見たのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』酋長はしばしば下層者を極めて無慈悲になぐりつける2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。そして彼らの誰かが船で窃盗を働いて捕えられた時には、その主人は彼らをとりなすどころかしばしば彼らを殺すようにすすめるのであるが3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]、このことは、酋長自身が窃盗罪を大して恐れていないように思われるのであるから、かかる貧民の生命はほとんどまたは全く価値がないものと彼らが考えるところからのみ起り得るものであろう。
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1)[#「1)」は縦中横] Cook's Third Voy. vol. i. p. 406.
2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 232.
3)[#「3)」は縦中横] Id. p. 233.
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キャプテン・クックは、最初にサンドウィッチ諸島を訪れた時には、外戦と内乱とが土人の間に非常に頻々とあると信ずべき理由をもった1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。そしてキャプテン・ヴァンクウヴァは、それより後の記録の中で、これらの諸島の多くがかかる原因により恐るべき荒廃を来したことを、力説している。キャプテン・クックの訪問以来、絶えざる争いがあって色々の統治者が変った。この訪問の際知った酋長でたった一人だけが生きていた。そして調べてみると、自然に死んだのはほとんどなく、その大抵の者はかかる不幸な争いで殺されたものであることがわかった2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。サンドウィッチ諸島における下層階級の人民に対する酋長の権力は、絶対的であるように思われる。他方において人民は彼らに完全に服従し、そしてこの隷従状態は彼らの心身に明かに大きな悪影響を有っている3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。ここでは他の島よりも階級差別は更にはっきりきまっているように思われる。けだし上流の酋長は下層のものに対して、最も傲慢な圧制的な行動を採っているから4)[#「4)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Cook's Third Voy. vol. ii. p. 247.
2)[#「2)」は縦中横] Vancouver, vol. i. b. ii. c. ii. p. 187, 188.
3)[#「3)」は縦中横] Cook's Third Voy. vol. iii. p. 157.
4)[#「4)」は縦中横] Id.
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フレンドリ諸島やサンドウィッチ諸島で殺児が行われているかどうか、またオウタハイトのエアリイオイ社に似た組織が作られているかどうかは、知られていない。しかし売淫が広く普及しており、下層階級の女の間に著しく行われていることには、間違ない証拠があるようであるが1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、これは常に人口に対する極めて有力な妨げとして作用するに違いない。その時間の大部分を酋長の身辺に仕えて送る召使たるトウトウ2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]がしばしば結婚しないというのは、間違のないことらしい。そして上流人に許される一夫多妻が、下層階級における乱交の罪悪の風を大いに助長し加重する傾向があるに違いないことは、明かである。
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1)[#「1)」は縦中横] Cook's Third Voy. vol. i. p. 401. Vol. iii. p. 130. Missionary Voy. p. 270.
2)[#「2)」は縦中横] Id. vol. i. p. 394.
[#ここで字下げ終わり]
もし、太
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