閧ナあることがわかる。幸福と富裕とは常に人口増加の最も有力な原因と考えられている。快適な気候の下にあり、病気はほとんどなく、女が苛酷な労苦を少しもしない所において、どうしてこれらの原因が、もっと恵まれぬ地方ではその類を見ないほどの力で、働かないであろうか。しかしこれらの原因が働いたとすれば、かかる狭く限られた限界内でこの人口は一体どこに余地と食物を見出し得るであろうか。周囲四〇リイグもないオウタハイトの人口が、二十万四千人にも上ってキャプテン・クックを驚かしたとすれば2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]、一世紀を経て、二十五年ごとに人口を倍加すると仮定してそれが三百万以上に達したら、それをどこに始末したらよかろう3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。この群に属する島はどの島も同様の状態にあるであろう。一つの島から他の島に移るのは、場所の変更にすぎず、困窮の種類の変更ではないであろう。有効な移民または有効な輸入は、この諸島の状況とその住民の航海状態からして、全く考慮に入れ得ないことであろう。
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 1)[#「1)」は縦中横] Missonary Voyage, Appendix, p. 347.
 2)[#「2)」は縦中横] Cook's Second Voyage, vol. i. p. 349.
 3)[#「3)」は縦中横] この増加率は、あらゆる妨げが除去されたと仮定した場合に実際に生ずべきものよりも、遥かにおそいものであることを、ほとんど疑わない。けだしオウタハイトには、その現在の生産物をもって、わずか百人の人間しかおらず、男女の数は同数であり、一人の男子は一人の女子を守るとすれば、引続き六、七代の間人口増加は未曾有に上り、おそらく十五年以下で倍加すべきものと考えざるを得ないのである。
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 ここでは困難な事態は極めて狭い範囲に圧縮されており、極めて明瞭、確実かつ強力であるから、吾々はそれから逃れることは出来ない。これは移民を論じたり、より[#「より」に傍点]以上の耕作を論じたりする、日常の生温い方法では、応じ得ないものである。今の場合では、前者は不可能であり、後者は明かに不適当であることを、吾々は認めざるを得ない。この群の島がその人口を二十五年ごとに倍加し続け得ないことは、絶対に間違のない事実である。従って吾々は、そこにおける社会状態の研究に立入らないうちに、不断の奇蹟が女子を不姙にしているのでない限り、人民の習慣の中に、人口に対するある極めて有力な妨げを辿り得るであろうことを、確信し得るはずである。
 オウタハイトとその近隣の諸島に関して吾々が得ている数多の報告によって見れば、文明諸国民の間にかくも大きな驚駭《きょうがい》をひきおこしたエアリイオイ社1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]なるものが存在することには、疑問の余地がない。これについては今までたびたび述べられているから、乱交と殺児とがその根本律であるらしい、という以外には、ここでは述べる必要はない。それはもっぱら上流階級から成り、『そして』(アンダスン氏によれば2)[#「2)」は縦中横、行右小書き])『この淫蕩な生活方式は非常に彼らの性向にむくので、最も美しい両性は通常その青春の日をかくの如くして費やし、最も蒙昧な種族といえども恥辱とするような極端な行いをしているのである。……エアリイオイ社の女が子供を産むと、水にひ[#「ひ」は底本では「び」]たした布を鼻と口に当てて窒息させるのである3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。』キャプテン・クックは曰く、『かかる社が、その成員をなす上流階級の増加を大いに妨げることは確実である4)[#「4)」は縦中横、行右小書き]。』この言葉が本当であることには疑はあり得ない。
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 1)[#「1)」は縦中横] Cook's First Voyage, vol. ii. p. 207, et seq. Second Voyage, vol. i. p. 352. Third Voyage, vol. ii. p. 157, et seq. Missionary Voyage, Appendix, p. 347. 4to.
 2)[#「2)」は縦中横] アンダスン氏はクックの最終航海に博物学者及び外科医として働いた。キャプテン・クック及びこの探検に参加した士官は、彼れの才能と観察眼に非常に敬意を払った。従って彼れの記述は最高の権威あるものと考えてよかろう。
 3)[#「3)」は縦中横] Cook's Third Voyage, vol. ii. p. 158, 159.
 4)[#「4)」は縦中横] Id. Second Voyage, vol. i. p. 352.
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 これと同じ性質を有つ特別の制度は下層社会には見出されないけれども、その最も顕著な特徴をなす罪悪は、ただ余りにも一般に拡がっている。殺児はエアリイオイに限られない。それはすべての者に許されている。そしてそれは、上流階級の間に広く行われているので、それは一切の悪名を、貧の誹りを、除かれるに至っているから、おそらくそれはしばしば必要手段たるよりはむしろ流行として採用され、そして平気でかつ何の遠慮もなく行われているようである。
 ヒュウムが、殺児の認容は一般に一国の人口増加に寄与する、と云っているのは非常に正しい1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。家族が多くなり過ぎるという恐れをなくするので、それは結婚の奨励となる。しかも両親は、力強い愛の情にひかされて、極端な場合の外はこんな残酷な方法に頼れなくなる。オウタハイトとその近隣の諸島におけるエアリイオイ社のやり方は、これをこの観察の例外たらしめているかもしれない。そしてこの習慣はおそらく反対の傾向を有つことであろう。
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 1)[#「1)」は縦中横] Hume's Essays vol. i. essay xi. p. 431. 8vo. 1764.
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 下層階級の人民の間に広く行われている放逸と乱交は、ある場合には誇張されているかもしれないが、大体疑問の余地なき証拠で明かにされている。キャプテン・クックは、オウタハイトの女を余りにも一般的な淫行から救ってやろうと、はっきりと努力したのであるが、その際彼は、この島には他のいずれの国よりもこうした性行が多いことを認め、同時に、女はかかる行いをしてもいかなる点でも社会の地位は下落せず、最も淑徳なる人達と無差別に交っているのであると、最も明白に述べているのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Cook's Second Voyage, vol. i. p. 187.
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 オウタハイトにおける通常の結婚は、男から娘の両親へ贈物をする以外には、何の儀式もない。そしてこれは、妻に対する絶対的契約であるよりはむしろ、娘をためしてみる許可に対する両親との取引であるように思われる。もし父がその娘に対し十分の支払を受取っていないと考えるならば、彼は少しも躊躇せずに娘に男と別れさせ、もっと気前のよい男と同棲させるのである。男はいつでも自由に新しい妻をもらうことが出来る。彼の妻が姙娠でもすれば、彼はその子供を殺し、しかる後好むがままに、母と関係を続けるか、または彼女を去るのである。彼が子供を取り上げこれを養う面倒を見る時にのみ、両者は結婚状態にあるものと看做される。しかしその後もっと若い妻が初めの妻の外に加わることもあろう。しかしこれよりも関係が変るのがはるかに一般的であり、平気でこれを話すほどに日常茶飯なのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。結婚前の不品行はこの種の結婚に対しては結局何の障害でもないように思われる。
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 1)[#「1)」は縦中横] Cook's Third Voyage, vol. ii. p. 157.
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 かかる社会状態による人口に対する妨げは、それだけで、最も好適な気候と最も豊富な食物のもたらす結果を相殺するに足ることがわかるであろう。しかしこれらが全部ではない。異る島の住民の間の戦争、及び彼ら自身の間の内争は、頻々とあり、そして時にはそれは非常に破壊的である1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。戦場における人命の浪費に加えて、戦勝者は一般に敵の領土を荒し廻り、豚や家禽を殺したり、運び去ったりし、そして将来の生活資料を出来るだけ減少してしまう。一七六七年と一七六八年に、豚と鶏に充ち満ちていたオウタハイト島は、一七六三年には、それが非常に少くなり、いかなるものを提供しても所有主はこれを手離そうとはしなかった。キャプテン・クックは、これは主として、その間に起った戦争によるものであるとした2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。一七九一年にキャプテン・ヴァンクウヴァがオウタハイトを訪れた時には、一七七七年に別れた友人は大抵死んでしまっており、すなわちその時以来たびたび戦争があり、ある戦争ではオウタハイトの両方の酋長が敵に加わったので、王は長期間完全に惨敗し、そしてその領土は全く荒廃に帰したことを、見出した。キャプテン・クックが残して行った動植物の多くは戦禍のためになくなっていたのである3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Bougainville, Voy. autour du monde, ch. iii. p. 217. Cook's First Voyage, vol. ii. p. 244. Missionary Voyage, p. 224.
 2)[#「2)」は縦中横] Cook's Second Voyage, vol. i. p. 182, 183.
 3)[#「3)」は縦中横] Vancouver's Voy. vol. i. b. i. c. 6. p. 98. 4to.
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 オウタハイトで頻々と行われる人身御供《ひとみごくう》は、それだけでこの土人の性格に野蛮という汚点を印するに足るものではあるけれども、おそらくは人口に著るしく影響を及ぼすほど数多くは行われるものであるまい。そして疾病は、ヨオロッパ人との接触により恐ろしく増加したけれども、以前には奇妙なほど軽く、またそれ以後でもしばらくの間は、異常な死亡を示すことはなかった1)[#「1)」は縦中横、行右小書き、「1」が底本では欠落]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Cook's Third Voy. vol. ii. p. 148.
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 かくて、人口増加に対する大きな妨げは、乱交、殺児、及び戦争の三罪悪であることがわかるが、その各々は非常に大きな力で働いているのである。しかしかかる原因が、生命を予防し破壊する上にいかに大きな力をもつとはいえ、それらは常に人口を生活資料の水準に保っていたわけではない。アンダスン氏によれば『この島は極度に肥沃であるにもかかわらず、飢饉はしばしば起り、その際には多くのものが死ぬと云われている。これが季節の不順によるか人口過剰によるか(それは時にはほとんど必然的に起らなければならないが)、または戦争によるかは、私はまだこれを決定することが出来ない。もっとも事の真相は、彼らが、食物が豊かな時でさえこれを非常につつましく用いることから、十分推察することが出来ようが1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』ウリイティアで酋長と会食した後、キャプテン・クックは、一同が席を立った時に、平民が大勢下に落ちたパン屑を拾いに雪崩れ込んで来て、細かいかけらまで余さず探し廻っているのを見た。彼らのうちのある者は毎日船にやって来、そして殺した豚の内臓を貰うために屠夫の手伝いをした。一般に屑
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