るにもかかわらず、アメリカ民族の平均人口は、ほとんど例外なしに、彼らの現在の勤労状態において獲得し得る平均食物量と、均等になっている、と云っても、大きな間違いはないであろう。
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 1)[#「1)」は縦中横] Major Roger's Account of North America, p. 210.
 2)[#「2)」は縦中横] Charlevoix, tom. iii. p. 302.
 3)[#「3)」は縦中横] Robertson, b. ii. p. 185. Burke's America vol. i. p. 300.
 4)[#「4)」は縦中横] Charlevoix, N. Fr. tom. iii. p. 260.
 5)[#「5)」は縦中横] インディアンの間に火器が一般に採用されたことが、おそらく、大いに野獣を減少したことであろう。
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    第五章 南洋諸島における人口に対する妨げについて

 レイナル僧正は、ブリテン諸島の昔の状態と、島嶼民一般について語って、曰く、『人口の増進をおくらせる無数の奇妙な制度の起源を、吾々はこれらの人民の中に見る。食人、男子の去勢、女子の陰部封鎖、晩婚、処女の奉献、独身の称揚、余りに若く母となる少女に対し行われる処罰等がこれである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』島嶼における人口の過剰により起ったかかる習慣は、大陸にもたらされ、大陸の学者は今日なおこれが理由の発見に努めている、と彼は云っている。僧正は、敵に囲まれたアメリカの蒙昧種族や、他国に取巻かれてそれと同じ地位にある開けた人口稠密な国民は、多くの点で島嶼民と類似の境遇にあるものであることに、気がついていないように思われる。大陸では、島ほどには、人口のより[#「より」に傍点]以上の増加に対する障壁ははっきりとは劃されておらずまた普通の観察者にわかるわけではないけれども、しかもそれはほとんど打ち超え難い障害をなしている。そして、自国における窮情に我慢出来ないで国を去って外国に移った人も、そこで確実に救われるとは限らない。生産物がもうこれ以上増加されえないという国は、おそらくまだ知られていない。これは地球全体について云い得る全部である。大陸も島嶼も、その現実の生産物の点まで人口で充たされている。そして地球全体はこの点では島嶼と同様である。しかし、島嶼における人口の限界は、特にその面積が小さい時には、極めて狭くかつはっきりしているので、誰でもこれを眼にし承認しなければならないから、最も確かな記録がある島嶼の人口に対する妨げに関する研究は、現下の問題を極めてよく例証する傾《かたむき》があろう。ニュウ・オランダの稀薄に散在している蒙昧人について、キャプテン・クックの第一航海記の中で問われている疑問、すなわち『いかなる仕方で、この国の住民はそれが養い得るだけの数に減らされるのか2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]、』という疑問は、南洋における最も人口稠密な島々、またはヨオロッパ及びアジアにおける最も人口の多い国々についても、等しく正当に発せられうる疑問である。この疑問を一般的に適用すれば、それは私に非常に興味あるものに思われ、そして人間社会の歴史上最も曖昧な、しかしながら最も重要な問題の闡明《せんめい》へと、導くように思われる。かくの如く一般的に適用されたこの疑問に答えるための努力なのだというのが、本書の最初の部分の目標を最も簡単明瞭に現わした言葉なのである。
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 1)[#「1)」は縦中横] Raynal, Histoire des Indes, vol. ii. liv. iii. p. 3. 10 vols. 8vo. 1795.
 2)[#「2)」は縦中横] Cook's First Voyage, vol. iii. p. 240. 4to.
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 ニュウ・ギニア、ニュウ・ブリテン、ニュウ・カレドニア、及びニュウ・ヘブリデス諸島というような大きな島については、確実にはほとんど何事も知られていない。そこにおける社会状態は、おそらく、アメリカの蒙昧民族の多くの間にあるものと、極めて類似していることであろう。そこには、互いに頻々と闘っている多数の異る種族が住んでいるように思われる。酋長はほとんど権力をもたず、従って私有財産は不安固であるため、食糧はそこでは滅多に豊富ではない1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。ニュウ・ジイランドの大島については吾々はこれよりはよく知っているが、しかしそれはその住民らの社会状態につき快い印象を与えるが如きものではない。キャプテン・クックが三つの異なれる航海記の中でえがいている描写は、人性の歴史において遭遇する最も暗い影を蔵している。これら人民の各種族が互いに絶えず闘っている闘争は、アメリカのいかなる地方の蒙昧人の場合よりもいっそう顕著である2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。そして食人という彼らの習慣、及び彼らがこの種の食物を愛しさえしていることは、疑問の余地なきほどにはっきりしている3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。キャプテン・クックは、蒙昧生活の罪悪を誇張する傾向は少しもないのであるが、それでさえ、クウィーン・シャアロット・サウンドの近隣の土人について、次の如く曰う、
『もし私が、吾々のすべての自称友人の忠言に耳を傾けていたならば、私は全種族を絶滅させたことであろう。けだし各村々の土人は、代る代る私に他の村を滅ぼすことを頼んだからである。このあわれな人民がこれほど分裂生活をしている実証を聞いても、人はこれをほとんどありえないことと思うであろう4)[#「4)」は縦中横、行右小書き]。』また同じ章の先の方で曰く、『私自身の観察と、タウェイハルウアの話からすれば、ニュウ・ジイランドの土人は互いに殺されはしないかという絶えざる不安の中に生きているに違いない、と私には思われる。彼らの考えるところによれば、ある他の種族から被害を受けたことはないと考える種族はほとんどないのであり、ために彼らは絶えず復讐をしようと見張っている。そしておそらく、人肉の御馳走にあずかりたいという欲望も、少なからぬ刺戟となっていることであろう。……彼らがその恐るべき計画を遂行する方法は、夜中ひそかに敵を襲うことである。そしてもし敵が警戒を怠っているのを見ると(しかしこれは滅多にないことと信ずるが)、彼らはあらゆるものを無差別に殺し、女や子供でも見逃さない。殺戮が終ると、彼らはその場で祝宴を催してたらふく食うか、または死骸を出来るだけ数多く運び去り、家でそれを言葉で現わせぬほど残忍な仕方で食う。……助命したり捕虜にするということは軍律にはなく、従って敗北者は逃げる以外に助かる方法はない。この不断の戦争状態と破壊的戦闘方法とは、習慣的な警戒を生ぜしめる極めて有力な作用をするのであり、従って、昼といわず夜といわず、ニュウ・ジイランド土人が警戒を解いているのを見ることはほとんどないのである5)[#「5)」は縦中横、行右小書き]。』
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 1)[#「1)」は縦中横] Histoire des Navigations aux terres Australes におけるニュウ・ギニア及びニュウ・ブリテンに関する各種の記述、及び Cook's Second Voyage, vol. ii. b. iii. におけるニュウ・カレドニア及びニュウヘブリデス諸島に関するそれを参照。
 2)[#「2)」は縦中横] Cook's First Voyage, vol. ii. p. 345. Second Voyage, vol. i. p. 101. Third Voyage, vol. i. p. 161, etc.
 3)[#「3)」は縦中横] Cook's Second Voyage, vol. i. p. 246.
 4)[#「4)」は縦中横] Id. Third Voyage, vol. i. p. 124.
 5)[#「5)」は縦中横] Id. p. 137.
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 右に述べたことは最後の航海記にあるのであり、最後の航海記では従前の記述の誤は訂正されたことであろうし、そしてここでは不断の戦争状態が、ニュウ・ジイランドの人口に対する主たる妨げと考え得る程度に行われているのであるから、この問題に関してはここで加える必要はない。女子の間で人口増加に都合の悪い習慣が行われているか否かについては、吾々は聞くところがない。もしかかるものが知られたら、それはおそらく非常な困窮の際の外には行われないことであろう。けだし各種族は当然に、その攻防力を増大するためにその人口を増加しようと希《ねが》うであろうからである。しかし南洋諸島の女が送る放浪的な生活と、不断の危急状態とは、絶えず武装して旅行したり働いたりすることを余儀なくさせるから1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、疑いもなく姙娠には非常に都合が悪く、家族が多くなるのを著しく妨げるに違いない。
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 1)[#「1)」は縦中横] Cook's Second Voyage, vol. i. p. 127.
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 しかしかかる人口に対する妨げは有力であるとはいえ、欠乏の季節が囘起《かいき》するところから見れば、それは人口を平均的生活資料以下に引き下げることは滅多にないことがわかる。『かかる季節があるということは、』(とキャプテン・クックは曰う、)『吾々の観察によれば疑問の余地がない1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』魚は彼らの主食であるが、それは海岸で、しかもある時期に2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]、取れるだけであるから、常に極めて不確実な食物源泉でなければならない。かかる不断の危急状態にある社会状態において、たくさんの魚を乾かして貯えることは極度に困難なことでなければならぬ。殊に魚の最も豊富な湾や入江は、最もしばしば、食物を探し求めて放浪している人民達の執拗な争闘目標となることと考えられるのであるから3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]、植物性生産物は、羊歯の根、山芋、クラム、及び馬鈴薯である4)[#「4)」は縦中横、行右小書き]。後の三者は耕作によって得られ、従って農業がほとんど知られていない南方諸島では滅多に見られない5)[#「5)」は縦中横、行右小書き]。これらの乏しい資源が季節の不順のため時に不作になった時にその困窮が恐るべきものでなければならぬことは、想像に難くない。かかる時期には、御馳走を食いたいという欲望が復讐の欲望に力を加え、彼らをして『餓死に代る唯一の方法として絶えず暴力により殺し合う6)[#「6)」は縦中横、行右小書き]』ということになるのは、あり得ないことではないと思われる。
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 1)[#「1)」は縦中横] Cook's First Voyage, vol. iii. p. 66.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 45.
 3)[#「3)」は縦中横] Id. Third Voyage, vol. i. p. 157.
 4)[#「4)」は縦中横] Id. First Voyage, vol. iii. p. 43.
 5)[#「5)」は縦中横] Id. vol. ii. p. 405.
 6)[#「6)」は縦中横] Id. vol. iii. p. 45.
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 ニュウ・ジイランドの稀薄に散在せる住民から、オウタハイト及びソサイティー諸島の人口稠密な海岸地方に眼を転ずるならば、これと異る光景が展開される。ヘスペリデスの園の如くに、豊饒であると云われている国からは、一切の欠乏の不安は消え去っているように思われる1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。しかしこの第一印象はちょっと考え直してみれば直ちに誤
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