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 これと同じ性質を有つ特別の制度は下層社会には見出されないけれども、その最も顕著な特徴をなす罪悪は、ただ余りにも一般に拡がっている。殺児はエアリイオイに限られない。それはすべての者に許されている。そしてそれは、上流階級の間に広く行われているので、それは一切の悪名を、貧の誹りを、除かれるに至っているから、おそらくそれはしばしば必要手段たるよりはむしろ流行として採用され、そして平気でかつ何の遠慮もなく行われているようである。
 ヒュウムが、殺児の認容は一般に一国の人口増加に寄与する、と云っているのは非常に正しい1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。家族が多くなり過ぎるという恐れをなくするので、それは結婚の奨励となる。しかも両親は、力強い愛の情にひかされて、極端な場合の外はこんな残酷な方法に頼れなくなる。オウタハイトとその近隣の諸島におけるエアリイオイ社のやり方は、これをこの観察の例外たらしめているかもしれない。そしてこの習慣はおそらく反対の傾向を有つことであろう。
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 1)[#「1)」は縦中横] Hume's Essays vol. i. essay xi. p. 431. 8vo. 1764.
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 下層階級の人民の間に広く行われている放逸と乱交は、ある場合には誇張されているかもしれないが、大体疑問の余地なき証拠で明かにされている。キャプテン・クックは、オウタハイトの女を余りにも一般的な淫行から救ってやろうと、はっきりと努力したのであるが、その際彼は、この島には他のいずれの国よりもこうした性行が多いことを認め、同時に、女はかかる行いをしてもいかなる点でも社会の地位は下落せず、最も淑徳なる人達と無差別に交っているのであると、最も明白に述べているのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Cook's Second Voyage, vol. i. p. 187.
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 オウタハイトにおける通常の結婚は、男から娘の両親へ贈物をする以外には、何の儀式もない。そしてこれは、妻に対する絶対的契約であるよりはむしろ、娘をためしてみる許可に対する両親との取引であるように思われる。もし父がその娘に対し十分の支払を受取っていないと考えるならば、彼は少しも躊躇せずに娘に男と別れさせ、もっと気前のよい男と同棲させるのである。男はいつでも自由に新しい妻をもらうことが出来る。彼の妻が姙娠でもすれば、彼はその子供を殺し、しかる後好むがままに、母と関係を続けるか、または彼女を去るのである。彼が子供を取り上げこれを養う面倒を見る時にのみ、両者は結婚状態にあるものと看做される。しかしその後もっと若い妻が初めの妻の外に加わることもあろう。しかしこれよりも関係が変るのがはるかに一般的であり、平気でこれを話すほどに日常茶飯なのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。結婚前の不品行はこの種の結婚に対しては結局何の障害でもないように思われる。
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 1)[#「1)」は縦中横] Cook's Third Voyage, vol. ii. p. 157.
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 かかる社会状態による人口に対する妨げは、それだけで、最も好適な気候と最も豊富な食物のもたらす結果を相殺するに足ることがわかるであろう。しかしこれらが全部ではない。異る島の住民の間の戦争、及び彼ら自身の間の内争は、頻々とあり、そして時にはそれは非常に破壊的である1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。戦場における人命の浪費に加えて、戦勝者は一般に敵の領土を荒し廻り、豚や家禽を殺したり、運び去ったりし、そして将来の生活資料を出来るだけ減少してしまう。一七六七年と一七六八年に、豚と鶏に充ち満ちていたオウタハイト島は、一七六三年には、それが非常に少くなり、いかなるものを提供しても所有主はこれを手離そうとはしなかった。キャプテン・クックは、これは主として、その間に起った戦争によるものであるとした2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。一七九一年にキャプテン・ヴァンクウヴァがオウタハイトを訪れた時には、一七七七年に別れた友人は大抵死んでしまっており、すなわちその時以来たびたび戦争があり、ある戦争ではオウタハイトの両方の酋長が敵に加わったので、王は長期間完全に惨敗し、そしてその領土は全く荒廃に帰したことを、見出した。キャプテン・クックが残して行った動植物の多くは戦禍のためになくなっていたのである3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Bougainville, Voy. autour
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