字下げ]
〔訳註〕このパラグラフは第一版に若干加筆せるものの再録である。1st ed., pp. 14−15.
なお第二版以下では、右の二つのパラグラフが示す如くに、問題提起後、直ちに人口と食物との両増加力の不等が説かれているが、第一版ではこれに先立って、有名な『公準』(postulata)が出て来る。すなわち右に引用した第一版からの文に続いて、次の如くある、――
『私は二つの公準を置いて差支えないと考える。
『第一に、食物は人間の生存に必要であるということ。
『第二に、両性間の情欲は必然であり、そしてほとんどその現状を維持するであろうということ。
『これ等の二法則は、吾々が人類について少しでも知識を有つに至った時以来、吾々の天性の確定法であったように思われる。そして吾々は今までこれに何の変化も見なかったのであるから、最初に宇宙の秩序を作り上げそして自分の創造物のために今なお確定法に従ってその各種の働きの一切を行っている神が直接に手を下さない限り、以上の事実が現在とは異るものとなるであろうと結論するの権利は、吾々にはないのである。
『私の知る限りでは地上において人間が終には食物なくして生きて行けるようになろうと考えた論者はない。しかしゴドウィン氏は両性間の情欲はその中《うち》になくなるであろうと推論している。だが彼はその著のこの部分は臆説の範囲にそれた所であると云っているから、私はここではただ人間の可完全化性を証明せんとする議論は、人間が蒙昧状態から今まで遂げて来た大きな進歩とそれがどの点に至ったら停止するかは云い難いという点から引出すのが最もよい、と述べるに止めて置こう。ところが今までは両性間の情欲は少しも消滅には向っていない。それは現在なお二千年または四千年前と同じ力で存在しているように思われる。現在個人的例外はあるが、しかしそれはいつでもあったことである。そしてこれ等の例外はその数を増すとは思われないから、ただ例外があるというだけのことで、この例外がその中に原則となり原則が例外となると推測するのは、確かに極めて非学問的な論法であろう。
『しからば私の公準は認められたものとして、私は云う、人口増加力は人間に生活資料を生産する土地の力よりも、不定限に大きい、と。』
[#ここで字下げ終わり]
植物と非理性的動物においては、問題は簡単である。彼らはすべて有力な本能によってその種の増加へと駆り立てられる。そしてこの本能はその子孫の養育に関する疑惑によって妨げられることはない。従って、自由のあるところ常に増加力は発揮される。そして過剰な結果は、後に至って、余地と養分との不足によって抑圧される(訳註)。
[#ここから2字下げ]
〔訳註〕最後の部分は第二版では次の如くなっている、――
『そして過剰な結果は、後に至って、余地と養分との不足によって抑圧されるが、これは植物と動物に共通なことであり、また動物にあっては、相互の餌となることによって抑圧される。』
なお第一版では、この全パラグラフは、『植物と動物においては』の語にはじまり、『養育に関する疑惑』が『養育に関する推理または疑惑』とあって、以下第二版の形のままとなっており、更に第二版以下のこのパラグラフの頭と共に、場所がここからはずっと離れて、現われている。1st ed., ch. II. pp. 27−28. そしてこの次のパラグラフに該当するところには、ただ次の如くあるに過ぎない。
『植物と動物にあっては、その結果は、種子の濫費、疾病及び早死である。人類にあっては窮乏及び罪悪である。前者たる窮乏はその絶対に必然的な帰結である。罪悪は著しく蓋然的な帰結である、従って吾々はそれが大いに瀰漫《びまん》しているのを見るのであるが、しかしおそらくこれを絶対に必然的な帰結と呼んではならぬであろう。道徳上の苛責は害悪へのあらゆる誘惑に抗するにある。』1st ed., pp. 15−16,
[#ここで字下げ終わり]
この妨げの人間に与える影響はもっと複雑である。等しく有力な本能によってその種の増加へと駆り立てられるが、理性はその進行を妨げ、そして彼に、生活資料を与え得ない者を世に生み出しているのではないか、と訊ねる。もし彼がこの自然の示唆に耳を傾けるならば、この抑制は余りにもしばしば罪悪を生み出す。もしこの示唆を聞かぬならば、人類の種は不断に生活資料以上に増加しようと努めていることになろう。しかし、食物をして人間の生活に必要ならしめるところのわが天性の法則によって、人口はそれを養い得る最低の養分以上に実際に増加することは決して出来ないのであるから、食物獲得の困難から生ずる人口に対する強力な妨げが不断に作用していなければならない。この困難はどこかに落ちて来なければならず、そして必然的に人類の大きな部分によって、何らかの形の窮乏または窮乏の恐怖として、痛烈に感ぜられなければならない(訳註)。
[#ここから2字下げ]
〔訳註〕このパラグラフの後半は 1st ed., p. 14. の各所からの書き集めである。
[#ここで字下げ終わり]
人口が生活資料以上に増加せんとするこの不断の傾向を有つこと、及びそれがこれら諸原因によってその自然的水準に抑止されていることは、人類が経過した種々なる社会状態を概観すれば十分わかるであろう。しかし、この概観へと進むに先立って、もしそれが完全に自由に働くがままに委ねられていたら人工の自然的増加はどんなものであろうか、また人類勤労の最適事情の下における土地の生産物の増加率はどのくらいが期待出来るかを、確かめようとする方が、おそらくこの問題をはっきり理解するに都合よいであろう(訳註)。
[#ここから2字下げ]
〔訳註〕第二版にはこれに続いて次の一文がある。
『これら二つの増加率を比較すれば、吾々は、上述せる生活資料以上に増加せんとする人口の傾向の力を判断し得るであろう。』
[#ここで字下げ終わり]
行状は極めて純潔簡素であり、生活資料は極めて豊富であり、ために、一家を養う困難から生ずる早婚に対する妨げが何も存在したことはなく、また悪習や都市や不健康な職業や過労によって人類の種の浪費が生じたこともない国は、今まで知られていないことが、認められるであろう。従って、吾々の知るいかなる状態においても、人口の力が完全に自由に働くがままに委ねられたことはないのである。
結婚に関する法律が制定されていようが、いまいが、自然と道徳との教えるところは、年早く一人の婦人に愛着することであるように思われる。そしてかかる愛着の結果たるべき結婚に対し、いかなる種類の妨害もなく、そしてその後に至って人口減退の原因もないならば、人類の増加は明かに、今まで知られているいかなる増加よりも遥かにより[#「より」に傍点]大であろう(訳註)。
[#ここから2字下げ]
〔訳註〕以上の二つのパラグラフは 1st ed., pp. 18−19. に、これとほぼ一致する記述がある。
[#ここで字下げ終わり]
生活資料はヨオロッパの近代諸国のいずれよりもより[#「より」に傍点]十分であり、人民の行状はより[#「より」に傍点]純潔であり、そして早婚に対する妨げはより[#「より」に傍点]少い、アメリカの北部諸州においては、人口は、一世紀半以上も引続いて、二十五年以内に倍加したことがわかっている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。しかも、この期間内ですら、都市のあるものにおいては死亡は出生を超過したが2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]、これは、この不足を補充した地方においては、増加は一般平均よりも遥かに急速であったに違いないことを、明かに証明する事情である。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] ある最近の計算と見積りによれば、最初のアメリカ植民から一八〇〇年に至る間において、倍加期間は二十年をやや上廻る程度でしかなかった。第二篇第十一章におけるアメリカの人口の増加に関する註を参照。(訳註――この註は第三版より現る。なお本文の前半は 1st ed., p. 20. から加筆の上第二版に採用され、更に全部は第三版にて若干加筆さる。)
2)[#「2)」は縦中横] Price's Observ. on Revers. Pay. vol. i. p. 274, 4th edit.
[#ここで字下げ終わり]
唯一の職業は農業であり、そして悪習や不健康な職業はほとんど知られていない、奥地の植民地においては、人口は十五年にして倍加したことがわかっている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。この異常な増加でさえ、おそらく、極度の人口増加力には及ばないであろう。新しい国を開発するには非常に過酷な労働が必要であり、かかる場所は一般に特に健康的とは考えられず、またおそらく住民は時々インディアンの襲撃を受けるであろうが、これは若干の人命を損じ、またはとにかく勤労の結果を減少することであろう。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Price's Observ. on Revers. Pay. vol. i. p. 282, 4th edit.
[#ここで字下げ終わり]
出生の死亡に対する比が三対一の比例である場合に、三六分の一という死亡率に基いて計算された、オイラアの表によれば、倍加期間はわずか一二年五分の四であろう1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。しかもこの比例は、啻《ただ》に蓋然的な仮定であるばかりでなく、一国以上において短期間に実際起ったところのものである。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] 第二篇第四章末尾の本表を参照。
[#ここで字下げ終わり]
サア・ウィリアム・ペティは、倍加は、十年というが如き短期間に可能である、と想定している1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Polit. Arith. p. 14.
[#ここで字下げ終わり]
しかし、吾々が全く確実に真理の範囲内にあらんがために、吾々は、これらの増加率の中で最もおそいもの、すなわち一切の共在する証言が一致し、そして生殖のみによるものなることが繰返して確証された一つの率を、とることとしよう。
従って私は、人口は、妨げられない時は、二十五年ごとに倍加し続け、または幾何級数で増加する、と云って間違いなかろう(訳註)。
[#ここから2字下げ]
〔訳註〕これとほとんど同一文は 1st ed., p. 21. にある。
[#ここで字下げ終わり]
土地の生産物が増加すると想像される比率を決定することはそれほど容易ではないであろう。しかしながら、これについては、限られた領域におけるその増加率は、人口増加率とは、全然その性質を異にしなければならぬ、と全く確信し得よう。十億人は一千人と全然同じく容易に人口増加力によって二十五年ごとに倍加される。しかし、この大きい方の数字から生じた増加分を養うための食物は、決して小さい方のそれと同様に容易には獲得されないであろう。人間は必然的に余地によって制限される。一エイカア一エイカアと加えられて遂に一切の肥沃な土地が占有された暁には、年々の食物増加は、既に所有されている土地の改良に依存しなければならぬ。これは、一切の土壌の性質上、逓増はせず、徐々に逓減するところの、基金である。しかし人口は、食物がそれに与えられるならば、少しもその力を減ずることなく増加し続け、そしてある時期の増加は次の時期にはより[#「より」に傍点]大なる増加力を与え、かくてはてしなく続くであろう。
支那や日本について記したものから見ると、人類の勤労をいかによく向けてみたところで、これらの国の生産物は多年を経て一度ですら倍加し得ようかと、立派に疑うことが出来よう。なるほど地球上には、今まで耕作されず、またほとんど占有されていないところが、たくさんある。しかし、これら人口稀薄な地方の住民でさえ、これを絶滅し、またはこれを餓死するに違いない一
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