D 30. の次の演説でわかる。『諸君が生れた子供を鳥獣の餌食とし、またはこれを絞殺するのを見る。堕胎剤を用いて将来の人間を抹消し、産む前に殺してしまうものもある。』
この罪はプリニでさえこれを次の如く弁解するほどに、ロウマで広く一般の習慣となった。『あらゆる婦人の多産はこの種の許可を必要とする。』Lib. xxix. c. iv.
おそらく、この三児法[#「三児法」に傍点]及びこれと同一の傾向を有つ他の法律は、ロウマ市民の上流の間では、幾分役に立ったであろうし、そして実際、これらの法律の本質は主として特権から成っているというその性質上、主としてそれは社会のこの部分を目標としたものと思われる。しかし人口増加を予防するありとあらゆる悪習は1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、この時代に極めて広く行われていたから、いかなる矯正的法律も何ら著しい影響を与えることが出来なかった[#底本ではここに不要な「た」]ように思われる。モンテスキウは正しくも曰く、『風紀の頽廃は、この風紀の頽廃をなくするために設けられた監察官の職を、破壊してしまった。しかし風紀の頽廃が一般的となる時には、監察はもはや何らの力ももたないのである2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。』と。結婚に関するアウグスツスの法律が通過してから三十四年の後、ロウマの騎士はその廃止を要求した。既婚者と独身者とを区別してみたら、後者の方の数が前者より遥かに多いことが分ったが、これはこの法律の無効を物語る有力な証拠である3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横]『しかし黄金の寝台には姙婦に滅多に寝ない。不姙を惹き起し腹の中で人を殺す技術や薬品が大いに流行る。』Juvenal, Sat. vi. 593.
2)[#「2)」は縦中横] Esprit des Loix, lib. xxiii. c. 21.
3)[#「3)」は縦中横] Id. c. 21.
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大抵の諸国においては、人口増加を予防する悪習は、結婚が少いことの結果であるよりはむしろ原因である。しかしロウマにおいては、道徳の堕落が、少くとも上流階級の間において、結婚を妨げた直接の原因であったように思われる。メテルス・ヌミディクスが監察官として行った演説を、憤りと嫌悪とを感ずることなくして読むことは不可能である。彼は曰く、『もし全く妻を有たずに行くことが出来るとすれば、吾々は直ちにこの害悪から免れることであろう。しかし自然の法則の指示するところは、妻があっては幸福に生活し得ないし、妻がなければ人間の種を継続することは出来ない、ということなのであるから、吾々は、刹那的な快楽よりは永続的な安固を尊重すべきである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』と。
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1)[#「1)」は縦中横] Aulus Gellius, lib. i. c. 6.
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事態の緊急に際して発布され、そして支那やその他の諸国における如くに宗教と一緒にはならない、結婚と人口を奨励するための積極的法律は、それが目ざす目的に合致することは滅多になく、従って、一般にこれを提議した立法者の無智を表示するものである。しかしかかる法律が表面的に必要だという事実は、ほとんど常に、その国の道徳的、政治的堕落の程度の著しいことを表示する。そしてそれが最も力強く強調される国においては、啻に悪習があまねく流行していることが見られるのみならず、政治的制度が、勤労にとり、従ってまた人口にとり、極めて不利であることが見られるであろう。
この故に私は、ロウマの世界はおそらく、トラヤヌス帝及びアントニヌス家の下にあった長い平和期に最も人口が多かったとヒュウムが想像しているのは1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、誤りであると考える点において、ウォレイス2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]に同意せざるを得ない。吾々は、勤労が引続き活溌な間は戦争は大して人口を減少せしめるものでなく、また人々が生活資料を見出し得ぬ時は平和も人口を増加せしめないことを、よく知っている。それ故に、トラヤメス帝の下における結婚に関する法律の更新は、悪習と、勤労の沈滞とが、引続き流行していることを指示するものであり、そして大きな人口増加を想像することとは矛盾するように思われる。
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1)[#「1)」は縦中横] Essay xi. p. 505.
2)[#「2)」は縦中横] Dissertation, Appendix, p. 247.
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おそらく、莫大な数に上る奴隷が、ロウマ市民の不足を補って余りあろう、と云われるかもしれない。しかし
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