スだ一つ[#「ただ一つ」に傍点]の種類の産業であって、かくも多数者が養われているかに見える近代世界の多数の技術や製造業の一切は、それが農業生産物の分量を増加し、その分配を便宜ならしめる傾向があるという範囲以外においては、人口を増加せしめる何らの傾向をも有たないのである。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Essay xi. p. 467. 4to. edit.
[#ここで字下げ終わり]
特殊な原因の作用によって、土地所有が非常に大きく分割されている国においては、これらの技術や製造業は、何らかの大きな人口の存在にとり絶対に必要である。これがなかったならば、近代ヨオロッパには人が住んでいなかったことであろう。しかし土地所有が小さく分割されている国においては、これらに対する同じ必要は存在しない。分割そのものが直ちに一大目的を、すなわち分配の目的を、達する。そして、もし戦闘を行い国家の勢力と威厳を保持するための人間に対する需要が恒常であるとすれば、吾々は容易に、この動機は、家族に対する自然的執着と相俟って、各土地所有者を誘って、最大多数の子孫を養い得るようにその土地を極度まで耕作せしめるに足る力をもつものと、考え得よう。
ギリシア及びロウマの歴史の初期に、人民が小さな国家に分たれていたことは、この動機により[#「より」に傍点]以上の力を与えるものであった。自由市民の数がおそらく一、二万を越えなかった処では、各個人は当然に自分自身の努力の価値を感得したであろう。そして、彼れの属する国家が、嫉妬深い油断なき競争の真ただ中に位置を占めているので、その防衛と安全とのためには主として人口に依存しなければならぬという事実を知り、従って彼に割当てられた土地を放置しておくのは市民たるの義務に欠けるものと感じたことであろう。これらの原因は、人間の人為的欲求が農業奨励の干渉を行うを俟たずして、農業に対する多大の注意を生み出したように思われる。人口は土地の生産物にこれよりも早い速度で随伴した。そして過剰の人口が戦争や疾病で除去されなかった時には、それは頻々たる植民に吐け口を見出したのであった。かかる頻々たる植民の必要は、国家の小なることと相俟って、あらゆる心あるものにこの問題につき思い当らせたのであるが、これはまた当時の立法者や哲学者に、生活資料以上に増加せんとする強力な人口の傾向を、指示せずにはおかなかったのである。そして彼らは、現代の政治家や先覚者と同様に、社会の幸福と安寧とにかくも深遠な影響を与える問題の考察を看過しなかった。この困難を除去するために彼らの採った野蛮な便法を吾々がいかに正常に呪詛し得るとしても、吾々は、彼らがこれに気がつき、またこれを考察して除去しなければ、それだけで彼らの最良の計画に成る共和主義的平等と幸福の計画を破壊するに足るものであることに十分気がついたことに対し、その洞察力にある程度の名誉を認めざるを得ないのである。
植民する力は必然的に制限されている。そして、ある期間が過ぎると、この目的に特に適した国にとっては、故国を去った市民が定着するに適した空地を見出すことは、不可能ではないとしても、極度に困難となるであろう。従って植民の外に他の方法を考えることが必要であったのである。
殺児の慣行はおそらく、ギリシアにおいて最も早い時代から行われていたものであろう。それが存在することが見られたアメリカの諸地方においては、それは、頻々たる飢饉と不断の戦争に曝されている蒙昧放浪的な生活において多くの子供を育てることの極度に困難なるに発したものであることがわかる。吾々は容易に、ギリシア人の祖先、すなわち同国の原住民の間においても、それは同じ起原から起ったものと、考え得よう。そしてソロンが小児遺棄を許した時には、おそらく彼は単に、既に行われていた慣習に法律上の認可を与えただけのことなのであろう。
彼は疑いもなくどの許可に二つの目的を有っていたのである。第一に、これは最も明白なことであるが、普遍的の貧困及び不満を惹き起す如き過剰の人口を防止すること。第二に、過大な家族の恐怖従ってまた結婚に対する主たる障害を除去して、もって領土が養い得る水準までに人口を維持すること、これである。この慣行の支那における結果から見ると、これは前者よりも後者の目的により[#「より」に傍点]多く役立つものと考えるべき理由がある。しかし、立法者がこのことを理解しないか、または当時の野蛮な風習が両親を誘って貧乏よりも殺児を選ばせたとしても、この慣行は右の両目的に極めてよく役立ち、そして、事態が許す限り完全にかつ不断に、食物とこれを消費する人口との間の必要な比例を維持するに役立つように、思われるのである。
ギリシアの政治学者は、この比例と、人口の
前へ
次へ
全98ページ中88ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
マルサス トマス・ロバート の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング