必要品を与えることが出来ないので、これを街頭に遺棄する。』………『北京や広東の如き大都市においては、この恐るべき光景は日常のことである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』
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 1)[#「1)」は縦中横] Duhalde's China, vol. i. p. 277.
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 ジェスイット僧プレマアルは同教団の一友に書簡を送って曰く、『私はあなたに、逆説的に見えるかもしれないが、絶対に真実な、一つの事実を告げよう。それは、世界中で最も富み最も繁栄せるこの帝国は、ある意味においては、あらゆる国々の中で最も貧しい最も惨めな国である、ということこれである。この国は、いかに面積が大で肥沃であるにしろ、その住民を養うに足りない。彼らを安楽にするには、四倍の領土が必要であろう。広東だけでも、誇張なしに、百万以上の人間が居り、また三、四リイグを距《へだ》てた一都市にはこれ以上の人間がいる。しからば誰がこの省の住民を数え得ようか。しかし、そのいずれもが同じくらいの人口を有つ十五大省を包含する全帝国に比すれば、これくらいが何であろうか。かかる計算はそもそも幾何に達するであろうか。しかもこの限りない人口の三分の一は、適当に生きて行けるだけの米をほとんど見出し得ないであろう。
『極度の窮乏が人民を駆って最も恐るべき蛮行に走らせることは周知の事実である。支那にあって事物を綿密に検討する観察者にとっては、母親がその子供を殺したり遺棄したりし、両親がわずかの金でその娘を売り、また人々は利己的で、盗賊の数は多いという事実を見ても、驚きはしないであろう。驚くことはむしろ、これ以上更に恐るべきことが起らず、そして、この国では非常に頻々と起る飢饉の時に、数百万の人間が、吾々がヨオロッパ史上で実例を見るような恐るべき蛮行に訴えることなく、餓死して行く、という事実である。
『ヨオロッパにおける如くに、貧民は怠惰なのであって、働きさえすれば生活資料が得られるのだ、とは支那では云い得ない。これらの貧民の労働と努力とは想像に絶する。支那人は、時には膝まで水に入って、土を掘り、そして晩には小匙一杯の米を食い、またそれを煮た不味い水を飲んで、喜んでいる。これが一般に彼らが食う全部である1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』
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 1)[#「1)」は縦中横] Lettres Edif. et Curieuses, tom. xvi. p. 394 et seq.
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 この記述の大部分はデュアルドの中で繰返されている。そして若干の誇張があるにしても、これは、支那において人口がいかなる程度に無理強いに増加させられているかということと、及びその結果たる困窮の状況とを、はっきりと示している。土壌が肥沃であり農業が奨励されているために当然に生じた人口は、真正にして望ましいものと考え得ようが、しかし結婚の奨励によって附加された全人口は、啻にそれ自身においてそれだけの純然たる窮乏の附加であるばかりでなく、更に他の人が享受し得べかりし幸福を全く奪ったものである。
 支那の面積はフランスの面積の約八倍と見積られている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。フランスの人口がわずかに二千六百万としても、その八倍は二〇八、〇〇〇、〇〇〇となろう。そして上述の人口増加の三大原因を考慮すれば、支那とフランスとの人口密度比例が、三三三対二〇八、すなわち約三対二であるといっても、信じられぬこととは思われないであろう。
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 1)[#「1)」は縦中横] Embassy to China, Staunton, vol. ii. p. 546.
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 人口増加の自然的傾向はどこにおいても極めて大であるから、あるいずれかの国の人口が到達している高度を説明することは一般に容易であろう。それよりももっと困難な、もっと興味ある研究点は、人口のそれ以上の増加を停止せしめている直接的原因を辿ることである。増殖力は、支那の人口を、アメリカ諸州の人口と同様に容易に、二十五年にして倍加するであろうが、しかし、土壌はかかる追加人口を明かに養い得ないから、かかることのあり得ないことがわかるのである。しからばこの強力な増殖力は支那ではどうなっているのであろうか。そして人口を生活資料の水準に抑止しておく抑制の種類や、幼死の形態は、いかなるものであろうか。
 支那における異常な結婚に対する奨励にもかかわらず、吾々は、人口に対する予防的妨げが働いていないと想像するならば、おそらく誤謬に陥るであろう。デュアルドは、僧侶の数は遥かに百万を超え、そのうち北京には独身者が二千おり、そのほか勅許によって各地に建立された
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