ニは、おそらく、異なる民族の、しかも確かに異る時期の記述なのであるから、両者が互に異るからといってどちらが間違っているとも推断し得ない。しかしパアクの記述の関する範囲においては、それは確かに彼以前のいかなる旅行者の記述よりも信頼し得るものである。
 2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 267.
 3)[#「3)」は縦中横] Id. c. xxii. p. 287.
 4)[#「4)」は縦中横] Id. p. 288.
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 アフリカは従来常に奴隷の中心市揚であった。かくの如くしてアフリカから流出する人口は莫大恒常なるものがあり、なかんずくヨオロッパ人の植民地に奴隷が採用されて以来は殊に甚しかった。しかし、フランクリン博士の云う如くに、アメリカを半分真黒にしてしまった百年に亙る黒人の輸出により作られた間隙を見出すことはおそらく困難であろう1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。けだし、かかる不断の移出と、不断の戦争による多くの人命の喪失と、罪悪その他の原因による人口増加に対する妨げとがあるにもかかわらず、人口は絶えず生活資料の限界を圧迫しているように思われるからである。パアクによれば、不作と飢饉とは頻々とある。アフリカにおける奴隷状態の四大原因の中で、彼は戦争に次いで飢饉をあげている2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。そしてさほど緊急でない場合には許されないが3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]、しかし主人がその家族を養うためには奴隷を売ることを公然許されているという事実は、ひどい欠乏が頻々と囘起することを意味するものの如くである。ガムビア地方に三年間も続いた大凶作の時に、多数の人民は奴隷となった。レイドリ博士がパアクに確言したところによれば、当時多くの自由民が、餓死から助かるために自ら進んで奴隷にしてくれと頼んだという4)[#「4)」は縦中横、行右小書き]。パアクがマンディンにいた時に、食料の不足が起って貧民は非常に苦しんだが、これは次のような事情により痛切に示された。彼がそこにいた毎夕、五、六人の女がマンサの家に来て、各々幾らかの穀物を貰っていた。『あの子供を見なさい』とマンサは五歳ほどの綺麗な子供を指差しながら彼に云った。『あの子の母は自分の一家の四十日分の食料と引替にあの子を私に売ったのだ。私は同じようにして他にもう一人子供を買った5)[#「5)」は縦中横、行右小書き]。』ジャロンカの小部落のスウシイタで、パアク氏はその長から、この地方は最近非常な凶作なので食料を調達し得ないと云われた。その長はまた、現在の収穫を取入れる前には、クロの全住民は二十九日間穀物を食べずにいた、と云った。この期間中、彼らは、全く、ミモサの一種たるニッタ(土人はそう呼んでいる)の莢《さや》にある黄色い粉と、適当に搗《つ》いて調理すると全く米のような味のする竹の種子とで、生きていたのである6)[#「6)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Franklin's Miscell. p. 9.
 2)[#「2)」は縦中横] Park's Africa, c. xxii. p. 295.
 3)[#「3)」は縦中横] Id. p. 288, note.
 4)[#「4)」は縦中横] Id. p. 295.
 5)[#「5)」は縦中横] Id. c. xix. p. 248.
 6)[#「6)」は縦中横] Id. c. xxv. p. 336.
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 パアクの記述によれば、アフリカでは非常によい土地がたくさん未墾のままにあるというのであるから、食物の不足は人民の不足によるものと、おそらく云われるかもしれない。しかしこれが事実であるとすれば、かくも多数のものが毎年国外に送り出されるわけがわからない。黒人諸民族が真に欠いているものは、財産の安固と、その一般的随伴物たる勤労である。そしてこれらがなければ、人口の増加は単にその困難を加重するだけであろう。もし、住民の不足しているように思われる地方を満たすために、子供に多額の奨励金を与えると仮定しても、その結果はおそらく、戦争の増加、奴隷輸出の増加、及び貧困の激増に過ぎず、真実の人口増加はほとんどまたは全く生じないであろう1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] 真実の人口増加に対する二大必要条件としてここに挙げたもの、すなわち財産の安固と、その自然的随伴物たる勤労とは、海岸地方の奴隷取引が、パアクの述べている掠奪遠征に対しこのように不断の奨励を与えている間は、黒人間に現れるとは期待し得ない。この取引が終熄《しゅうそく》する暁には、吾々は合理的に、久しからずして将来の
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