キ行者は、アフリカの諸民族の社会状態に関し、パアクが画いているよりも好ましい描写を吾々に与え得るものと、希望し得よう。(訳註――この註は第四版より現る。)
[#ここで字下げ終わり]
 ある民族の習慣及びあらゆる民族の偏見は、ある程度この種の奨励金のような作用をする。ブルウスによれば、シャンガラ黒人は、四方を活溌な有力な敵に囲まれ、そして苛酷な労働と不断の不安の裡に生活しているので、女子に対してほとんど欲望を感じない。彼らの一夫多妻の原因は男の側になく妻の側にある。彼らは別々の種族や民族をなして生活しているが、これらの民族はまたも各家族に分たれている。戦いにおいては各家族はそれぞれに独自に攻撃し防禦するのであって、分捕物や掠奪物は彼らのものになる。従って、母親は、小家族の不利益がわかるので、自分の出来るだけのことをして家族を殖やそうと努める。そして夫は妻に強いられてその要求を容れるのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。ガラ族における一夫多妻の動機もこれと同一であると云われており、そして両民族とも、第一の妻は第二の妻に、夫に対し同盟を作ろうと求める。そしてその時の主な云い分は、両方の家族は一緒に纒《まと》まって強くなり、そして両方の子供は、数が少ないので戦いの際に敵の餌食となるというようなことはなくなる、というのである2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。しかしおそらく、大家族を持とうというこの極端な望みは、その目的を達することが出来ず、またそれがもたらす貧困と窮乏とは、両親がより[#「より」に傍点]少ない子供の養育に注意を限る場合よりも成人となる子供の数を少なくすることとなろう。
[#ここから2字下げ]
 1)[#「1)」は縦中横] Bruce's Travels to discover the Source of the Nile, vol. ii. p. 556. 4to.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 223.
[#ここで字下げ終わり]
 ブルウスは一夫多妻を大いに擁護しており、それが広く行われている地方では女児の男児に対する出生比例は二ないし三対一であると主張してこれを弁護しているが、けだしこれが一夫多妻を弁護する唯一の方法なのである。しかしながら、かかる異常な事実は、彼れの立論の基礎となっているような漠然たる研究を典拠にしたくらいでは、これを承認することは出来ない。かかる風土では、男よりも女の方がかなりに多くいるということは、極めてありそうなことである。女児よりも男児の方が多く生れることが確実にわかっているヨオロッパにおいてすら、女子の数は、一般に男子よりも多い。従って吾々は、暑い不健康な気候、野蛮な社会状態においては、男子の曝らされている事故の数は非常に多くなければならぬと想像し得よう。女子は、家庭に坐っていることが多いのであるから、炎熱や瘴気《しょうき》の苦しみを受けることが少ないであろう。彼らは一般に不節制から生ずる病気に罹ることは少ないであろう。しかしなかんずく彼らは戦争の惨害からは非常に免れることであろう。戦争の止むことのない社会状態においては、この原因による男子の死亡だけでも、両性の大きな不均衡を惹き起さずにはおかないが、殊にアビシニアのガラ族1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]について云われている如くに、あらゆる男子を誰彼の別なく殺戮し、結婚可能な女子だけをこの殺戮から救うという風習のある場合には、なかんずく甚だしいに違いない。これらの原因から生ずる両性の現実の不均衡がまず一夫多妻の認許を生ぜしめ、そしておそらく、吾々をしてより[#「より」に傍点]容易に、暑い風土における男女児の比率は温帯において吾々が経験しているものとは極めて異っていると信ぜしめることとなったのである。
[#ここから2字下げ]
 1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. iv. p. 411.
[#ここで字下げ終わり]
 ブルウスは、この問題に関するそのいつもながらの偏見をもって、女子の一部のものの独身生活は一国の人口にとり致命的であると考えているように思われる。彼はジッダ族について云う、生活必要品がほとんどない場所に非常にたくさんの人民が集った結果として食料が大いに欠乏しているので、住民はほとんどマホメットにより与えられた特権を利用することは出来ない。従って彼らは一人以上の妻と結婚することが出来ない。そしてこの原因から、人民の不足と、多数の未婚女子とが生ずるのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、と。しかしこの不毛の地における人民の不足はもっぱら食料の不足から起るのであり、そして各人が四人の妻を有ったとしても、人口がそれにより永久に増加し得ないことは、明かである。
[#ここから2字下げ]
 1)[
前へ 次へ
全98ページ中60ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
マルサス トマス・ロバート の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング