ー]
 1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. vi. c. xxxiv. p. 54.
[#ここで字下げ終わり]
 アジアにおける移住と征服の潮流、ある種族の急速な増加、及び他の種族の絶滅を、ほんの概略でも見てみると、このことははっきりわかる。フン族の恐るべき侵寇、蒙古人及び韃靼人の広汎な侵入、アッチラ、ジンギスカン、タンメルランの血腥い征服、及び彼らの帝国の建設と崩壊に伴った恐るべき動乱の時代を通じて、人口に対する妨げが何であったかはただ余りにも明かである。ほんのちょっとした気まぐれまたは便宜の上の動機がしばしば全人民を無差別の虐殺に投じたところの1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、当時の人類の蹂躪の歴史を読むと、吾々は、それ以上の人口の増加を妨げた原因を尋ねる代りに、相次ぐ征服者の各々に殺戮されるべき新らしい人間を供給し得た人口増加の原理の強力なるに、ただ驚き得るのみである。そこで吾々の研究は、これを韃靼民族の現状に向け、かかる凶暴な争乱の影響下にない場合におけるその増加に対する通常の妨げに向けた方が、より[#「より」に傍点]効果的であろう。
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. vi. c. xxxiv. p. 55.
[#ここで字下げ終わり]
 その先祖とほとんど同一の風習を保持している蒙古人の子孫が現在住んでいる広大な地域は、その中にアジアの中部地方のほとんど全部を占め、そして極めて良好温和な気候の利益を有っている。土壌は一般に大きな自然的肥沃度を有っている。本当の沙漠は比較的に云ってほとんどない。時にはプレインと称せられ、ロシア人はステップと呼ぶ、灌木のない茫漠たる草原は、豊富な牧草に蔽われ、多数の家畜や家禽の牧場に非常に適している。この広汎な土地の主たる欠点は水のないことである。しかし水のある地方ならば、適当に耕作されれば、現在の住民数の四倍を養うに足りると云われている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。あらゆるオルダすなわち種族は、夏牧場と冬牧場をもつそれぞれ一州を有っている。そしてこの広大な領域の人口は、それがどれだけであるにしろ、おそらく、各地方の実際の肥沃度にほとんど比例して、分布しているのである。
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 1)[#「1)」は縦中横] Geneal. Hist. of Tartars, vol. ii. sec. i. 8vo. 1730.
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 ヴォルネエは、シリアのベドウィーン族を論ずるに当って、かかる必然的分布を次の如く正しく説明している。『不毛の州、換言すれば植物の少い州では、種族は、スエズの沙漠、紅海の沙漠、及び大沙漠地方の奥地の如くに、弱体であり非常に離れている。ダマスカスとユウフラテス河との間の如くに、土地に生物がもっと生えている場合には、種族はもっと強くまた相互の距離も近い。アレッポのパチャリック、ハウラン、及びガザ地方の如き、耕作可能の州では、聚落《しゅうらく》は多くかつ互に接近している1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』かくの如く、その実際の勤労と習慣との状態において獲得し得る食物の分量に従って人口が分布するということは、シリアやアラビアと同じく大韃靼にも適用し得るし、文明諸国民の商業がこれをより[#「より」に傍点]低級な社会段階ほど目立つことを妨げるとはいえ、事実上地球全体に等しく適用することが出来るのである。
[#ここから2字下げ]
 1)[#「1)」は縦中横] Voy. de Volney, tom. i. ch. xxii. p. 351. 8vo. 1787.
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 大韃靼の西部地方に住む囘教韃靼人は、その土地の若干を耕作するが、しかしそれは極めて粗放で不十分であって、到底生活資料の主源泉をこれに仰ぐには足りない1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。野蛮人の怠惰な好戦的な気質は、到る処に拡がっており、彼らは掠奪によって得る望のあるものを労働によって得ようという気には容易にならない。韃靼の年代記に目立った戦争や叛乱が何もない時には、その国内の平和と勤労とが、掠奪を目的とする小競合や相互の侵入で絶えず妨げられているのである。囘教韃靼人は、平時にも戦時にも、ほとんど全くその隣人を掠奪しこれを餌食にすることによって、暮していると云われている2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。
[#ここから2字下げ]
 1)[#「1)」は縦中横] Geneal. Hist. Tart. vol. ii. p. 382.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 390.
[#ここで字下げ終わり]
 チォワラスム王国を支配者として所有するウズベック族は、その貢納者たるサルト族及び
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