gルコマン族に、その国の最良の牧場を委せているが、それは単に、その方面の近隣種族が貧しくかつ油断がないので、掠奪が成功する望みがないからであるだけのことである。掠奪は彼らの主たる資源である。彼らは絶えず、ペルシア人、及び大ブカリアのウズベック族の領土に、侵略を行っている。そして彼らが奪った奴隷やその他の貴重品がその富の全部をなしているのであるから、平和も休戦も彼らを抑制することは出来ない。ウズベック族とその被支配者たるトルコマン族とは絶えず争っている。そして統治家族の諸王族がしばしば醸成する彼らの嫉妬は、この国を不断の内乱状態に置いている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。トルコマン族は常に、クルド族及びアラビア族と闘っているが、後者はしばしばやって来て、彼らの家畜の角を折り、また彼らの妻や娘を奪い去るのである2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Geneal. Hist. Tart. vol. ii. p. 430, 431.
2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 426.
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大ブカリアのウズベック族はすべての囘教韃靼人の中で最も開けていると考えられているが、それでも彼らの掠奪心は他のものに大して劣るものではない1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。彼らは常にペルシア人と戦っており、そしてチョラサン州の美しい平原を荒蕪《こうぶ》としておく。彼らの所有する地方は最大の自然的肥沃度を有ち、そして古代の住民の子孫のあるものは商業や農業という平和な技術を営んでいるけれども、土壌の好適なことも、また彼らの前にある実例も、彼らを誘ってその古来の習慣を変更せしめることは出来ない。そして自然が惜し気もなく提供している富源の開発に自ら従うよりも、むしろ隣人に掠奪と盗みと殺戮とを行うことを好んでいるのである2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Geneal. Hist. Tart. vol. ii. p. 459.
2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 455.
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トルキスタンにおけるカサチア・オルダの韃靼人は、北方及び東方の隣人と不断の戦争状態で暮している。冬には彼らはカルマック族に向って侵寇するが、このカルマック族はその頃には大ブカリアの辺境地方及びその国の南部地方の掃討に出掛ける。他方において、韃靼人は絶えずヤイクのコサック族及びノガイ韃靼人を悩ましている。夏には彼らはイーグル山脈を超えてシベリアに侵入する。そして彼らはしばしばこれらの侵略では運が悪く、その掠奪物の全部は彼らが極めてわずかの労働で彼らの土地から手に入れることが出来るものにも及ばないけれども、しかも彼らは真面目に農業に従事するよりも、かかる生活に必然的に伴う幾多の困憊と危険とに自ら好んで身を曝すのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Geneal. Hist. Tart. vol. ii. p. 573 et seq.
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他の囘教韃靼人の生活方法もこれと同じことであり、これを繰返すのは煩しいから、従って読者は『韃靼系譜史』とその有益な註を参照せられたい。この歴史の著者はチォワラスムのチャンであるが、彼自身の行為が、これらの国で行われる政策上の、復讐または掠奪のための、戦争の、蒙昧なやり方に関し、面白い例を示している。彼は一再ならず大ブカリアを侵略した。そしてその遠征のいずれも、国土を蹂躪し、町村を亡ぼし破壊したのを特色とした。彼れの俘虜のある者が彼れの行動を妨げるような場合には、彼はこれを即座に殺すのを躊躇しなかった。彼に対する朝貢族たるトルコマン族の力を減らそうとして、彼はあらゆる主立った人物を厳粛な饗宴に招き、それを二千名も虐殺させた。彼は少しも容赦なく残酷に、トルコマン族の村を焼き払い破壊し、そしてその結果が自分に戻って来て戦勝者の軍隊が食物の不足で甚だしく悩んだほどの破壊をあえてしたのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Geneal. Hist. Tart. vol. i. ch. xii.
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囘教韃靼人は一般に商業を嫌い、彼らの手中に入るすべての商人を害することをその職業としている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。黙認する唯一の商業は奴隷売買である。これは彼らが掠奪的侵略で持ち去る分捕品の主たる部分を成すものであり、彼らの富の主たる源泉と考えられている。彼らがその家畜の世話をさせるかまたは妻妾にす
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