候の中に暮していて、しばしば著しく増加し、ためにその多数はその郷土を去り新居住地を求めに行かざるを得ない。これらの地方のいずれかが人口過剰となり、これを処分しようとする時には、次の方法がとられた。まずそれは三組に分けられ、そのいずれも同数の貴族と平民、富者と貧者をもつようにされる。それから彼らは籤《くじ》を引き、籤に当った組は、故国を去って自己の運命の開拓に出掛け、残った二組に故郷の財産を享受すべきより[#「より」に傍点]多くの余地と自由とを残す。これらの移民がロウマ帝国を崩壊せしめたのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』ギボンは、マキアヴェルはこれらの移民の規則的な協議的な方法を誇張しすぎている、と評している2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。しかし私は、おそらくは、彼はこの点について大きな誤りを犯していないし、その耕地を一年以上同一所有者が所有することを許さないという、ケイザルとタキトスの注目したゲルマン人の法律が出来たのは、過剰人口をこのようにして処分する必要が頻々と起ることを予見してのことであろう、と思うのである3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。ケイザルがこの習慣の理由として挙げられていると述べているものは、不適当であるように思われる。しかしこれに加えるに、マキアヴェルが述べているような移民の見通しということをもってするならば、この習慣は非常に有用なことがわかり、そしてケイザルが述べている理由の一つには二重の意義が与えられることになろう。すなわちその理由とは、一つの地点に定着すると戦争の労苦に代えて農業を好むようになるから、それを防ぐためだというのである4)[#「4)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Istorie Fiorentine Machiavelli, l. i. p. 1, 2.
 2)[#「2)」は縦中横] Gibbon, vol. i. c. ix. p. 360, note. 右のマキアヴェルの説の出所と想像されるパウル・ディアコヌスは次の如く書いている、――『北方地方は、太陽の熱から遠く離れ雪の寒さが激しくなるほど、人間の健康と子孫の繁殖に適する。反対に、南方地方は、太陽の熱に近づくほど、ますます病気が多く増殖に適しない。………前者の地方の多くは、人間が多く増殖したので、これを養うことが困難になり、ために多くの民族は移動し、アジアの諸地方のみならずヨオロッパの近接地法をも荒らすのである。』(De Gestis Longobardorum, l. i. c. i.)
『この民族が成立し、その数が大いに増加すると、もはやこれを全部養うことが出来なくなった。伝説によれば、彼らは民族を三つに分ち、そのいずれが故郷を去って新らしい居住地を求めに行くかを、籤できめた。故郷を去り他に土地を求める籤を引いた群は、指揮者としてイボル及びアギオなる、血気|旺《さか》んなゲルマン人を指揮者に選び、住居と植民地とを求めて、親族、朋友、故郷に別れを告げて、出発したのである。』(C. ii.)
 3)[#「3)」は縦中横] De Bello Gallico, vi. 22. De Moribus German. s. xxvi.
 4)[#「4)」は縦中横] De Bello Gallico, vi. 22.
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 北方の住民は現在よりも昔の方が遥かに多かったという、あり得そうもない仮説を、ギボンは、ヒュウム及びロバトスンと共に、排しているが、これは非常に正しい1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。しかし彼は、これと同時に、北方諸民族の強い増加傾向を否定せざるを得ないものと、――あたかもこの二つの事実は必然的に関連しているかの如くに――考えている2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。けだし過剰人口と実際に多い人口とは常に厳重に区別しなければならない。蘇格蘭《スコットランド》のハイランド地方は、おそらく、大ブリテンのいかなる地方よりも人口が過剰であろう。そして、昔広大な森林で蔽われ、主として家畜や家禽で生活して来た種族3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]が住んでいた、ヨオロッパの北方が、現在よりも当時の方が人口が多かったと云うのは、明白な不合理を主張することであるけれども、しかし『ロウマ帝国衰亡史』に詳説されている事実、または私が今ごく概略述べた事実でさえも、これら民族の最も強大な増加の傾向、及びその再三の損失を自然的多産性により恢復するの傾向、を想像することなくしては、これを合理的に説明することは出来ないのである。
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 1)[#「1)」は縦中横] Gibbon, vol. i. c. ix. p. 361.

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