S配は、程度の多少はあるがヨオロッパのどこでも大きな力で働いているのである。幸にも近代世界の状態は前よりも平静なので、そんなに急速な人間の補給を必要としない。従って自然の多産性はそれほど一般的には発揮せしめられ得ない。
 マレエは、その『デンマアク史』の初めにのせた北方諸民族に関する優れた記述の中で、彼らの移住が故郷における余地の不足から起ったという証拠は見出し得ない、と云っている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。そして彼が与えている理由の一つは、大きな移住の後には、これら諸国はしばしば永い間人影のない無住の地となっていた、という点である2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。しかしこの種の事例は時には起ったかもしれぬが、稀であると思う。当時行われていた敢為と移住の習慣によって、全人民が時により[#「より」に傍点]肥沃な土地を求めて動いたこともあろう。この場合には、彼らが前に占有していた土地はしばらくの間は無住の地となる。そして人民の全的移住が示す如くに何か特に好ましくないことがその土壌か位置の上であるのであれば、かかる抛棄された土地を直ちに占有するよりも、剣によって自らを養う方が、周囲の野蛮人の気質に適合するかもしれない。かかる全的移住は、社会が分裂を欲しないことを立証しはしたが、しかし彼らがその敵国において場所と食物とに窮しないことを決して立証するものではない。
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 1)[#「1)」は縦中横] Hist. Dan. tom. i. c. ix. p. 206.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 205, 206.
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 マレエが与えているもう一つの理由は、スカンジナヴィアと同様にサクソニイでは、広大な土地が、今まで掘ったことも伐りひらいたこともなく、本来の未耕状態にあり、そして当時のデンマアクの記録によると、海岸だけに人が住み、奥地は一つの大森林となっていた、という点である1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。彼がここで、住民の過剰と大きな実際の人口とを混同するという、普通の誤謬に陥っていることは、明かである。この人民は牧畜的風習と、戦争及び敢為の習慣のために、その土地を開拓し耕作することを妨げられたのである2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。そしてまたこれらの森林こそは、生活資料の源泉を狭めるこ
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