る。

    朝鮮土産と不老長寿

 大正十一年、私は妻と共に朝鮮に旅行した。それまでにもちょいちょい小旅行を試みたことはあるが、両人共にこうしてやや遠くまで出かけられるようになったことは、新宿に移ってから十五年、店の成長とともに、我らと寝食を共にして来た店員の成長したことをも語るものであって、留守を預けて出るにつけてもこのことは思われ、ここにも新たに店主としての喜びがあった。
 朝鮮旅行の目的は、一般に視察と称するような堅いものではなかったが、さりとて単なる遊びの旅でもなく、まず朝鮮の家庭訪問というところであった。我々はかねて、新たに同胞となったこの半島の人々に対しては一段と親しくし、互いに心と心をよく通じ合うようにせねばならぬと考えていたので、在京学生の青年たちにも喜んで接し、折に触れては家庭に招待して食事を共にするなど少しばかりの世話ぶりをしたのが、青年たちの父兄に喜ばれ、ぜひ朝鮮を見に来てくれと彼方此方《あちこち》から招きを受けるようになり、とうとうこの訪間となったのであった。
 私はこの旅行によって初めて松の実というものを味わった。我々は京城に入っても内地人経営の旅館には入
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