んだものを全部パンに製造しては売れ残る恐れありと見るや、その余分だけを「ラスク」(乾パンの菓子)に製するのである。しかしこの場合、その製品たる「ラスク」をどう処分するかが問題で、これには別途の販路がなければならない。当時「ラスク」は市価一斤(百二十匁)七十銭で、相当高級品として上流家庭に需要のあったものであるが、私の「ラスク」はパンの廃物利用として造り出されたのであるから、その値段は一般民衆に得意を見出す程度のものにしたいと考えた。
そこで「ラスク」の原価調査をしてみると、一斤の原料費が三十五銭、製造費十五銭、卸売費五銭で、合計五十五銭、そこへ小売店の販売差益十五銭を加えて七十銭となっていることが判った。私はこの七十銭の市価に対して、原料費の三十五銭と雑費の五銭を加えて、四十銭で売り出すことに決めた。職人等はそんな安値で売る品物ではないと言って強く反対したが、私は、このラスクは元来がパンの過剰処分であるから、普通の商品並みにすることはよくない。原料代を回収することが出来れば、工場費も燃料も職人の給料も、全然見る必要がないという見解であった。ただこの安値で売ることはラスクの製造販売業者
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