っては、たとえ無理をしてもお受けせねばならぬと思うのが人情であり、またせいぜい勉強して先様のお間に合わすということも平常の同情に報ずる道であって、それを思えばつい店員を励まして非常時的努力を試みたくもなるのである。だが人間はそんなに無理の利くものではない。註文の時間に後れるとか間に合わせの品が出来るとかして、とかく不成績に終り、その上店売の製品には手がまわらなくて、せっかく出向いて来て下さったお客様に、あれもございませんこれも出来ませんでしたという不始末になる。人の能力に限りのあることを思えば、かような結果はただちに予想されるのであって、したがって無理は出来ないということになるのである。
私のところの経験によると、人は緊張すれば一時的には、平常の働きの五割増くらいまでの仕事をすることが出来るが、それ以上を望めば必ず失態を生じ、またその時は何とかなっても、後になって疲労が出て著しく能率を減ずる結果になったりする。もっとも世間には五割増どころか、いざとなれば平日の二倍も三倍もの仕事を無事に仕上げることが出来るという者がある。しかしその人が緊張時において本当に平日の二、三倍の仕事が出来たと
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