料以外は問屋からとらないことにしている。これは問屋からとって売る製品は安心してお客にお勧め出来ないからである。いくら「見てくれ」はよくても、美事でも、材料を一々吟味しているかどうかは、そう一朝一夕に分るものではない。自信のあるものを売らなければ店の信用を維持出来ないのだから、自家製品のみを売るのはけだし当を得た策と思っている。
 これについて、一つ話がある。
 四五年前だったが、東京で最も信用のある一流の店に、私の方で弁当を注文したことがあった。その時三十人ばかりが中毒し、その店は警視庁管下でも、模範的な衛生設備をしていると自他ともに許していた店なので、いろいろ研究して見ても何が中毒を起したか皆目分らなかった。材料も吟味しているし、調理も一分の隙もないし、どこにもそんなことが起りそうな原因がありそうになかった。ところがだんだん調べて見ると、自分のところで作ったものは何一つ間違いない立派なものだったが、中の蒲鉾だけは他からとったものだったことが分った。その店は三百円ばかりの注文に、四百円もの見舞金を持って来たが、私の方でもそのために入院費その他で千円もの金を費ってしまった。だがこれはひと
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