職長だとはきめられない。職長の中には事なかれ主義で、部下の過失を見逃し、遅刻、欠勤などの場合にも、厳重に注意を与えることをしないものがある。無論そうしてあれば、部下には寛大な職長としてよろこばれるのであろうが、実は甚だたよりにならぬ職長である。こういう職長の下についた青年は、まるで温室の中で伸びる草花も同然で、将来世間の競争に堪えて行くことが出来ない。無論部下に対し厳に過ぎるのはよろしくないが、寛に過ぎて人を鍛えることをしないのは親切とは云えぬ。それでは後輩を指導するとは云えぬのであります。
また非常に勤勉で、常に率先して、脇見もせずに働く職長がある。これは部下に勤勉の活きた手本を示すもので、たいへん結構なようであるが、実際には、これがいっこう他の手本にならないことが多いのです。こういう職長は仕事の中のむずかしい所は、人に任せないで自分がやってしまっていて他に眼がとどかぬのをよいことにして、横着な者は自分の受持を怠り、職長自身は一生懸命働きながら、全体として見るとかえって能率が低下するという妙な現象が起ります。こういう働き人は一職人として模範的なのであって、職長としては決して上々とは
前へ
次へ
全330ページ中61ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
相馬 愛蔵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング