現在ではだんごに青粉を入れている。従ってこれは「名物」だからと買って賞翫する気にはなれない。今日ではただ僅かに名物という名残りをとどめるにすぎないのも故あるかなである。
私の店でも「草だんご」を売るが、まだ春浅く東京近辺では草が萠え出ていない時分にどうするかというと、房州辺から一貫目二円ぐらいの草を買って拵えているのだ。何品によらずこれだけの注意は払わねばならない。西新井薬師の「草だんご」もこれだけの誠実があれば名物の地位を失うことはなかったのである。
奥州八戸に「胡麻せんべい」というのがある、昔は東京までその名が聞こえて賞味されたものであるが、最近これを買って見ると一向うまくない。種々研究の結果はこうだ、八戸は昔胡麻の名産地であって、粉も非常に良いものを用いていたが、近頃は粉も劣り、胡麻は安い支那産のものを用いている。
世は日進月歩であるのに、造るのは次第に劣って来る。人間も誠意と努力が欠けて来る。昔はその土地が自然に優れていてそれが名物となっていたものであるが、世が進めばこれに対抗する苦心があるはずだ、老舗などが倒れて、新しいものにお株を奪われるのもみなこの苦心を欠くからであ
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