ぎない。
 ある時群馬県知事の某氏が私を訪ねて来られたので、私はこの片原饅頭のことをいうと話だけは聞いているが、「どうして駄目になったのでしょう」とかえって理由を聞かれたようなことであった。いったい利根川べりの砂地に出来た小麦というものは日本一の優種で他に及ぶものがなく、江戸でも京都でも最上級の麦粉としてもてはやされたものである。ところが十数年前、日清製粉工場が館林に出来て、一般の小麦を買い集めて二等粉に製した。すると片原饅頭もこの二等粉を用いるようになった。
 一方東京の一流店では日清製粉などには飽き足らず、値段は二倍とするが、それを厭わずにアメリカのセントラルベストあたりを用いるようになったから、片原饅頭の名声がすたれたのに不思議はない。
 もしこの場合製造家が片原饅頭の名代を護り、海内唯一の理想を掲げて、良い材料を選ぶことに苦心したならば、長年の信用をこんなに早く失うはずもなかったろうにと、まことに惜しいことに思われる。
 西新井薬師の門前は、軒並に名物「草だんご」を売っている。昔あの辺は一帯が原であったので「もちぐさ」が豊富に得られ、だんごやもこれで起ったものであろう。ところが
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