「商人といえども理想を高く掲げて、相当の利益を挙げて立ち行き得るものである」と、確信を以て答えることが出来る。むしろ、現在の商人は利益を望んで理想を持たざるが故に滅び行くのであると考えている。
その一例として言って見ると、私は昨年十二月十四日から一週間、日本橋白木屋において開催された電通主催、地方各新聞社推薦の「地方物産展覧会」を見に行って驚いた。ほとんど珍しいのがないばかりか、地方地方の特色は全然失われ、みな東京の支配下にある、という感を深めた。
食料品に至ってはことに甚だしい。参考材料になるようなものは一つもない。かくも地方の不振を招いたのはいったい何であるか。地方経済の不振ということもあろうが、その主な原因はやはり時勢に応じて進む研究心と努力の不足であると言わねばならない。例えば上州前橋の片原饅頭である。三十年前までは片原町全町を挙げて饅頭屋であった、片原町に行って見ると朝早くから軒並に湯気を立てていて実に見ものであった。前橋はいうに及ばず高崎でも、旅館はみなこの片原饅頭を土産に出すので、全国的にその名を知られていたものであるが、現在ではたった一軒その名残りをとどめているにす
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