いうか、一度大臣になった人は、野に下っても、生活だけはやっぱり大臣の生活をする。いったん大きくなったら容易にもとの簡易さに戻れない。そこに人知れぬ悲劇もあると言わねばなりません。
三百余年繁栄して衰えぬ三井家の家憲というものを見ると、やはりなるほどとうなずかれるものがあります。誰方もよく御存知でありましょうが、私の心を惹いた条々を、おぼえのままに引いて見ますと(但しこれは現代語に直されてあり、原文そのままに味わうことは出来ないがだいたいの意味において)
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一、同族一門は情諠を収て和衷協調し、心を一つにして行かねばならぬ。同族が相争う時には家運は亡びる。一本の矢は折れ易いが、十本の矢を束ねる時は折れない、というこの教訓は、自分の家の掟に適っている。
一、節倹は家を富まし、奢侈は人を亡ぼす、節倹は子孫繁栄の基礎である。
一、家業に専心しなければならぬが、必要なる経費は積極的に出さねばならぬ。あまり勘定ばかりしていては大きな商売は出来ない。
一、他人を率いる者は、よく業務に通暁しなければならぬ。だから同族の子弟はまず丁稚小僧の仕事から見習わせて、漸
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