な質素な生活は出来ないのであります。
 その結果として、初代の時は店の経費も生活費も多くを要せず、従って営業の方針も薄利勉強で進むことが出来て、ますます世の信用を博し営業も発展したのであるが、二代目三代目は諸経費の増大のため、従来の薄利主義を守ることが出来ない。漸次利鞘を大にして勉強の度を減ずるほかありませんから、店の信用は低下し、売上は漸減する。また初代主人と使用人との間には、多年苦楽をともにして、互いに離れられぬ親しみがあり、また階級的の差別を感じるほど生活程度も違っていぬから、使用人として不平も起らない。双方におもいやりがあって、感謝の気持で働くから能率も上がるが、二代目三代目となると主人はもう使用人とともに働くわけには行かぬ。ただただ指図をするか、あるいは顔出しをするくらいに止まることになって、しかも生活程度は甚しく懸隔を生じ、使用側は羨望と不満から自然と職務は怠り勝ちとなり、能率が低下する。
 大会社や大工場の重役等が労せずして高給を食むに反し、実際に中堅になって働く役員や職工はその十分の一程度の給与しか受けないために、不平を起して充分に働かぬと同様の結果となるのであります。
前へ 次へ
全330ページ中54ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
相馬 愛蔵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング