、有難さに泣き、ああもったいないと思いました。その番頭はお得意のお引立てにいっそう力を得まして、支店候補を予め見て来たといって「千駄ヶ谷付近が最も有望です」という報告でした。
しかしその時私は四度目のお産の後、肥立が思わしくなく、床につき勝ちでしたところへ、僅か半年でそのみどり児を失い、その悲しみや内外の心労と疲れから全く絶望の状態に陥っておりまして、気力もなく昏々と眠りついて居りました。その中で、はっと気がつき「これではいけない」と起き上がりました。「店の人達があんなに働いて開拓していてくれるのに、これは早く見に行かなくては」と思うと、もう一時もじっとしていられなくなり、起きると早速支度して、主人とその人と三人で支店を出す場所を探しに出かけました。
まず最初に千駄ヶ谷方面から伴れ立ってまわりましたが、千駄ヶ谷は当時すでに開けていまして将来発展はしそうですが、私の方の店としては不適当でした。方々歩き、新宿の只今店の在る辺りにまいりますと、それは場末の如何にも佗びしい町でしたが、いますぐそこにどれだけの商いがあるか、それは疑問であるとしても、四谷の方からつづいて来ている地形といい、更
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