約束の時間までに菓子を製造して届けねばならぬこともある。あるいは原料が高くなって、収支償わないことがある。同業者と競争をして打撃を受けることあり、あるいは店員に不都合なものが出たり、内憂外患これではもう往生するよりほかはないと思うことがある。ことに好きな読書時間がないのが何より不平であって、精神上しきりに一種の渇望を感ずる。しかしその多忙で一寸の暇もない内に時を見出して、半ページ一ページの読書をなす時は、実に愉快この上なく、ことに月末の一週間は勘定しらべのために費さねばならないが、これが済めば全身綿の如く疲れる。肩も張る。そこで半日の休みを頂いて心身に休養を与えるもよいが、さらに我が慰めは読書である。ゆえに他より見れば非常な苦痛のように見えるが、自分はさらに苦痛を感じない。これはつまり仕事に変化があって、その変化が肉体と精神に慰藉を与えるからである。休むということは室の中に寝ころぶばかりをいうのではない。変化をつけることである。ゆえにこの東京で変化の多い生活をしたものは、田舎に引込んで単調の生活は出来にくいのである。空気が新鮮で閑静な田舎に行き、一日や二日ぐらい気保養することは面白いが
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