ことではない。必死になって人一倍働かねば、実際生きて行かれないのである。
五、パン店
これも素人好きのする商売であって、ことに女の内職としてはこの上もない適当な仕事である。ある悪口屋は痛罵して曰く、パン屋の内儀さんは大概妾であると。たしかに一部を穿った真理である。実に女子供にも容易に出来るのと、資本も三四百円もあれば開店できるので、同業者夥しく、同町内にも数軒より十軒くらいの多きに及ぶ所も、店にはガラス瓶や缶詰等の商品を見事に飾り立て、白熱ガス燈でも点ずる時は、ピカピカテカテカ輝り返して外観すこぶる美わしいけれども、物には裏表のあることを記憶せねばならぬ。妾的婦人が小綺麗に扮装して美しく磨き立てた店に鎮座ましませど、儲かり過ぎて綺麗にしているのでは決してない。たとえ僥倖にして成功したところが、自分一人の食料か家賃の幾分を補うくらいが関の山であって、店の売上げをもって家族を養うことはとうてい出来ない。多くは半年一年の内に食い込みとなって、店を人手に譲り渡すのである。自分は開店以来僅か数年を経過しただけであるが、この間に取引せし小パン屋約三十軒余であったが、今なお現存している
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