り買手はないのである。但しこの薪炭業も、仕事が比較的簡単で店飾りというものもないのであるから、素人としては着手し易い商売である。その代り利益もきわめて薄い。その売上げ利益は平均一割にも当らぬものである。ただ相場の騰貴する前、敏捷に立ち廻って、いわゆる見込買をしておく時は、一割五分ないし二割を儲けることもあるが、これは資本の裕かな人で融通のきく人でなければならない。普通問屋から日々注文のものだけを仕入れて来て小売する人は、一把の薪一俵の炭をも労を惜しまないで、遠く隔っている得意へまで配達することによって、初めて幾分の利益を得られるのである。それも創業時代には決して雇人などをおかず、遠回りは主人自ら配達し、近所は主婦も受持って届けるくらいの決心と実行がなければ、とうてい成り立つものではない。自分の知っているある勤勉な薪屋さんは、年中五時から仕事にかかって、夜は十一時まで夜業をし、そして主人初め、家族、雇人総勢京橋のある河岸端から新宿、下谷、本郷のかけ離れた場所まで配達し、精限り根限り働いて、それでただ生活して行くだけであると云う。競争の激甚な東京で、無事に生活するというその事が、実に容易の
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