一通りは揃うのである。他の商売と異り、仕入のコツというようなものがあるのではないから、地方出身者の仕事としては、まず着手しやすいであろう。
四、薪炭商
田舎人は大概自分の郷里から多少の薪炭が産出せられ、またその代価が東京の小売相場に比較して廉価な所から、これを東京に運搬して販売したならばはなはだ利益が多いだろうと考え、着手した人も随分多い。しかし現在東京人の間に使用される薪炭の種類及び産出地はすこぶる複雑なもので、我々素人のとうてい想像も及ばない事もあるのである。すなわち薪はおもに常陸、野州から来るもので、普通各区において使用されるものである。炭は会津より来るものが多く、伊豆紀州から来るものは品質が最上で、かつ水利のある所から、日本橋、京橋、新橋等の地に専ら使用されるものと、昔からほとんど定まっているので、これらの品を使い馴れた人々は、決して他から来る下等品を用いない。また野州炭や常陸産を用いている人は伊豆や紀州辺の上等品は決して使わない。こうして東京の得意は少しくらい値の安いのに動かされるものではないから、田舎のポッと出の人がむやみに郷里の薪炭を売りつけんとしても、つま
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