ら搾乳と配達をしているが、毎日東京市中を十里ずつかけ歩くという実話をした。創業の際などはこれほど勉強しなければ競争場裡に立って行けないのである。牛乳配達の回数はおおむね午前午後と二回であって、午前は朝三時頃から始め、午後の配達は二時頃から配らなければならぬ。得意は滋養物として規則正しく飲用する人が多いから、ぜひ食事前に間に合うよう配達せねば、直ぐ他の勉強家に得意を奪われてしまう。
 次に牛乳屋は甚だ手数のかかるものであることも、予め覚悟しなければならぬ。牛乳は甚だ腐敗の早いもので、少しも油断は出来ぬゆえに、牛乳が牧場から運搬されるたびごとに、親切に入念に消毒法を行わねばならない。ことに夏期は一度消毒した牛乳を絶えず冷水につけておくこと、用器や空瓶も丁寧に消毒することなどなかなか苦心を要するものである。洗いようが粗末であれば、牛乳がいくら新鮮でも腐敗するのが早くなる。一度腐敗した牛乳を知らずに配達したら最後、たちまち信用を欠いて即日お断りを受ける。しかし普通のミルクホールを開店するには、椅子[#「椅子」は底本では「綺子」]テーブルから菓子皿コップ、室内の装飾等のために、三百円内外かければ
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