ょっとなるほどと思いましたが、よく考えて見ると、その無駄と思いし事がこの宿が特に繁昌する基だったんです。信州の温泉は自炊しながら逗留している客が多いので、寒い朝火の起った炭の豊富なるサービスは特に有難く感じるわけで、金額としては僅かの炭八十俵が資本となって、他の店の及ばぬ大繁昌を招来したのに間違いないから、それを無駄などと考えては大変ですよ、と注意しますと、
 主人はこれを聞いて、しばし黙していましたが膝を打って、
「なるほど早速帰って妻を監督せねば一大事だ」
 と言うて立ち上りました。
 総じて婦人がこの細か過ぎる点さえ注意するなれば、男子の及ばぬ成功を収むるのであります。

    理想通りにゆかぬもの

 早稲田の商科のある先生が「理論ばかりでは駄目だ、実地においても人に教えなければ」
 というわけで、もうかなり前の私の本郷時代であるが、浅草のあるところに小間物屋を開いた。その店の特長として、その先生が力説された点は次のようなものである。
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一、繁華な浅草に近いこと
二、近所にあいまい屋がたくさんあること
三、吉原への近所で人通りもかなり
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