ありました。今日の大三井家も現代において基礎を作りしは女主人であり、現代でも味の素の大をなせしも当主人の祖母の力に原因し、明電舎の今日あるも全く母君の力であります。
かく婦人の力は偉大なものでありますが、概して婦人は小心にして注意深きところよりその長所が時にはかえって障害となるのもありますから、この点では注意しなくてはなりません。
その一例を挙ぐれば、呉服屋にて男主人や番頭は布切五尺の注文に対して、三四寸の尺伸びをサービスとして勉強する場合にも、女主人は五尺キッチリで少しもおまけをせぬ傾があるので、妻女が店頭に居ると客は素通りすると云われて居ります。
私の知人で信州の山奥に温泉宿の株を買った者があります。その宿屋が非常に繁昌して隣家羨望の的となっているのですが、最近主人に代って妻君が乗り出して万端経営するようになって、ある日主人が私を尋ねて、
「相馬さん、いくら男が威張っても女にはかないません。私が監督していた時には全然わからなかったのですが、妻が来てずいぶん無駄をしていたのを発見しましたよ、冬一期に八十俵も他家に比して無駄にしているのです」
との話です。
私はこれを聞いてち
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