。百貨店は万事が積極的であるに対し、小商店は消極的である。これを例えるならば、百貨店は大英帝国であり、小売店はあたかも印度の如しとも言えるのである。
しかし印度にもガンジーの如き英雄があって、なお特別の戦術により、不撓不屈の運動をなして居る。ガンジーの例はやや当を失する嫌いなきにあらざるも、その不撓不屈の精神のみは、我が小商店に良き教訓を垂れると考えてもあえて不当ではあるまい。
商売は地味にやるべし
家賃(一ヶ月)は一日の売上げ程度に止むべきだと思います。すなわち一ヶ月売上げの三十分の一つまり売価の三分三厘ということになりますが、百貨店では、だいたいこの標準でやってるようで、成績のいい店ほど、この割合を低減して行くものと見るべきであります。
よく市内で見かけることですが、あそこの店の売上げはおよそこれこれと見当がつくのに、あれだけの場所であの店構えで、よくやっているなと思うような所は赤字である場合が多い。そうでなければ、その蔭には有力な出資者がいるとか、他に本収入があって、家賃稼ぎだけに店を出しているとか相当の仕掛があるので、もし地方から出て来たばかりのような人でこの辺の事情に暗い者が、それらの店を有望として譲り受けでもするならば、意外の結果を見て驚くほかはないでしょう。他に何ら収入のないもので、専らその商業によって生活を立てるという場合には、前記のように一ヶ月の家賃ぐらいを一日に売上げる方針が必要であります。だいたいこの計算によれば間違いはありません。
販売の仕方
私はお得意に対しては、親疎遠近の別なく、いっさい平等に売るべしと主張いたします。つまり正札厳守ということであって、期間を限ってやる特売とか旬末サービス、さては早朝三割奉仕とかいう商略等を絶対に排斥するものであります。
何故いけないか。それは客の身になって考えて見れば判ることである。昨日自分が五円で買った帽子が、今日は同じ店で四円である、これはけしからぬときっと不満に思うに違いない。そしてこれだけはその時だけに止まると思われないで、なあにこの店は正札正札と威張っていても、時季を見てまた特売する時があるのだ、あるいは二流品を一流品のように見せかけて、高い値札をつけてあるから特売が出来るんだと、だんだんその店の信用を落して行くものであります。
ゆえに、店の信用を高むるためには、正札主義をあくまで守り通すことが大切であります。
広告費について
広告は、自分の店の存在を明らかにし、店の特長を知って貰う上から非常に大切なものですが、しかしこれをあまり重要視しすぎて、その釣合を失い肝心の商品をして値上げまでしなくては立ち行かぬようでは考えものだと思います。薬九層倍といいますが、これは宣伝費が売価の大部分を占めているからであります。
他の商品にあっては、よろしく限度をきめて、売価に影響せぬ程度が必要でありますから、総売上げの百分の一以下が適当ではないかと思います。米国のチェーンストアは百五十分の一となっておりますのに、米国の百貨店は三十分の一で、約八倍の広告費を支出するため、前者の方がそれだけ安く売れますから、百貨店はチェーンストアに得意を奪われているのであります。
仕入のこと
仕入は総て品質、値段、時季、産地等その間の事情をくわしく調査してかかることはもちろんでありますが、問屋を相手とする場合とても得意に対すると同様にこの方針で、誠の心をもって終始する心掛が必要だと思います。
よく相手の足元につけこんで、徹底的に値切り倒し、あるいは些少の金利を目あてに支払いを延期するなど、これを称して商売のかけ引の上手のように教える人がありますが、これはとんでもない誤りであります。
問屋荷主に不安や不快を与えるほど仕入の上に不得策はありません。またこの小策を要する商人は、決して大成するものではありません。
正札附の人物たれ
一個の商品に二様の価なく、いっさいの顧客に平等の待遇[#「待遇」は底本では「体遇」]を致すのが商道の極意であります。これが正札の原則で、目前の小利に眩惑して価を上下し、貴賤によって礼遇を差別するが如きは商売の堕落であって真の商人たる価値なき者であります。商品に良品廉価の確信があって初めて真実の価があり、真実の定価があってここに正札がある。品質に疑あるか価値において他の優越を恐るる如きことあれば、正札は真の正札ではない。終いにはその価を二三にせざるを得なくなる。
ゆえに商人として其の誠実に忠ならんとするならば必ず商品は正札をしてすこしも上下してはならない。正札を守らんがためには最も合理化せる経営をしなくてはならない。
而してこれらのすべてを完成せしむるには、まず自分として表裏反覆なき正札付
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