しめることが出来ればその店は必ず栄えるのだが、店頭にボンヤリ客を待ちながら、欠伸《あくび》を噛殺しているようなことではとうていそれは望まれぬ。
小売店更生の方法
米国では第一次欧州大戦後、連鎖店《チェーンストア》が非常に発展した。そして当時では連鎖店がむしろ百貨店を圧迫しているくらいである。ゆえに百貨店も連合してこれに対抗している状態だ。連鎖店といっても日本に現在見る如きものとは異り、すこぶる大仕掛のもので、さればこそ客の吸引力において、百貨店を恐れしめたのである。
先に述べた無駄な経費を絶対に省くこと、人の能率を挙げること、こうして毎日の能率を平均せしめること、これを事実において示しているのが彼の地の連鎖店である。百貨店では、人件費、広告費等が売上げの三割を超えているが、連鎖店では二割二分で済む。このひらきだけ連鎖店の方が百貨店よりも同じ品を安く売ることが出来る。安く売ることが出来て、しかも利益率が多いのであるから、客も喜び、店も栄える、すなわち一挙両得とはこの事だ。
連鎖店は至るところに開店出来る上に、配達員を要せぬ。建物も二階以上は使用せぬゆえ、エレベーターやエスカレーターの費用が省ける。また特売や出張販売をせぬからこの点の費用も要らぬ、大百貨店と立派に対抗して、しかも彼をキュウキュウ云わせることの出来る所以である。この点は我が国の小商店の学ぶべき事である。この点を学ばずして、百貨店の戦略を真似て新人顔をするなど愚の至りである。
米国の連鎖店が今日の隆盛をもたらした原因は、要するに百貨店その物を十分に調査研究した上で、しかも彼を真似ず、独特の経営法を案出した点に存するのである。ゆえに我が国の小商店でも彼を真似ず、独特の経営法を案出すべきである。米国の連鎖店が良いからといって、いたずらにその形式を真似せず、その方針、経営法の根本を学ぶべきである。かくすることによって、没落の恐怖に怯えている我が小商店の更生の道を見出すことが出来るであろう。
百貨店の先手を打て
百貨店が安い品を売るから、此方も品質を落して安い品を売るという式では、結局お得意を失うのみである。お得意は失いたくないと言って東京のまん中なら神田の炭屋が、三里も距った郊外の笹塚から注文があったからとて配達費自前で届けるのをもって勉強と心得るのは、間違ったやり方である。遠い所は他の店に譲り、近い所に全力を集中するのが悧巧な方法で、人件費配達費を考えたら、遠方配達は到底出来ぬことである。
小売店が百貨店と対抗して商売するには、米国の連鎖店がしたように、百貨店の品を隅々までも精細に調査研究した上で、各店が連合協力して、一店毎に瀬戸物なら例えば火鉢、洋品店ならメリヤス襯衣という風に、二三種を各々奉仕販売するのも一方法である。品の種類は時季に応じて取りかえて行く。
これを実行するには目先を利かせて機敏に、絶えず百貨店の先手を打って行くようにせねばならぬ。客の方では何日何商店に、何日どこそこの店に行けば百貨店と同じ品で、しかも値が安いというので、わざわざ電車に乗ってまで百貨店に行かずに済むから便利である。大資本、大量仕入の百貨店と対抗するには、品質を落さないこと、各商店が気を揃えて協力することが大切で一人や二人では相撲は取れぬ。
次に、広告宣伝の方法は、「何日特売デー」「何日粗景呈上」「勉強の親玉」等と、抽象的な平凡な文句を書いても効能は少ない。
何処の店のチラシも皆な同様な文句をならべたのでは、いっこうに魅力を感ぜぬ。こんな消極的なきまり文句では少し心あるものには、その店主の脳味噌の程が思いやられて、足を向ける気がしない。
百貨店では広告の文句、宣伝の方法を真剣に研究している。小商店では出たとこ勝負のやっていけ[#「やっていけ」に傍点]で、甚しいのになると、他店の文句をそのまま真似たのさえある。滑稽きわまる話で、何のための広告か真意の程を理解するのに苦しむ。その店には必ず独自の特色、個性があるべきで、他店にない特色、個性があってこそ初めてその店は生きてくる。
客が足を向けることを誇りとする店、かかる店であれば、不景気など素通りしてしまう。「あの店でチンドン屋を雇ったから俺の店も雇おう」ではいけない。
そこで各店が連合して、一店一種ないし二種の犠牲奉仕品を出すには、広告チラシも共同の物を作る。そうすれば費用も少額で足りる。文句も「お安く致します」だけでなく、何印の何品は何程と書き、百貨店の売価と対照した表を作って、一目で百貨店より二銭なり三銭なり安いことを知らしめるようにする。
要するに大多数の小売店が、百貨店の進出によって、不利なる立場に追い詰められつつあるのは、産業界経済界の不況にも因る事だが、研究心の不足が大なる原因である
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