銭でも、栄養分はかえって舶来品に優って居りますので、犬は正直にも舶来品よりもよろこんで食べます。
 またわが北海において蟹缶詰を作りますが、蟹の甲羅は初め海中に捨て去られて居たのを、オランダ人が発見して買い取り、本国に運んで鶏の餌に致しておりました。その結果かオランダ卵は黄味も濃く味もよろしく、世界第一位の品位を得て居ります。日本の如く物資の乏しい国において、かかる有料な材料を他国人に利用されて居る事は甚だ不名誉の至りと言わねばなりません。
 その他例を挙げれば、枚挙にいとまないほどでありますが、これは将来我々が各方面にわたって研究すべき重大な問題でありまして、一概に廃物などと軽視する傾向を一掃して、廃物のない社会を理想として、我が日本を発展せしめなければならぬと思うのであります。

    一人一店主義

 一人一業主義という言葉は聞いて居りますが、私は一人一店主義であります、私は創業以来支店は持ちません。銀座の如き目抜きの場所に、支店向きの適当な譲店が出たなどと誘惑をたびたび受けましたが、私は主義として、一人には一つの店で充分なりとの信念をもって終始一貫してまいりました。特別に偉い人であれば格別でありましょうが、我々普通の人間にとっては、数多い店を管理することは、決して策を得たものではないと思います。二兎を追うものは一兎をも得ずの諺の如く沢山の支店を持つ人の例をみましても、多くは不結果に終るようであります。それは多くの支店の中には、必ず赤字のものが出来る、そして好成績の支店の利益を蚕食するか、あるいは本店を傷める結果となって、全体としては結局大したこともないという結論になるのが普通であります。もしまれに相当な成績を挙げ得たものがあったと致しましても、その人がもし一店に全精力を集中したならば、さらにより優秀な結果を収むることが出来ると考えます。ゆえに私は間口を広くして奥行の浅い行き方よりも、間口を狭くして奥行を深くといった方がはるかに安全にしてかつ合理的であると信ずるのであります。また研究して見ますと、たとえ一店だけでも、これで充分だということはなく、奥はますます深く限りないものでありますから、一店だけでは不充分だなどということは、とうてい考え得られないのであります。そしてこの行き方こそ、真に職業に忠実なるものであると堅く信じております。
 あるいは御差障りがあるかも知れませんが、世間には一人で幾十という会社の重役を兼ねて居るのを見受けますが、特別な偉人でない限りこれは無責任のそしりを免れないものであります。
 いたずらに形だけの大小に捉われて、その質を忘れることのないよう、自ら戒めて戴きたいのであります。

    商売は公明正大

 昔は、商人というものは甚だ軽蔑されて、まことにつまらない待遇を受けて居った。また商人自身も、自分は、学者、政治家、軍人等と、対等のものでないというような考えで、自然卑屈に流れ、商売は正々堂々でなく、まあ儲けさせて貰うのだから、小さくなるのはやむを得ない、無理を言われても我慢してなくちゃならぬものというふうに考え、またそういうふうに教えられて来た。
 しかし私は、はじめて商業に従事した時、このくらい自由なものはないと感じた。これが勤め人だというと、いくら真面目に働いても、上役の御機嫌にそむくようなことがあれば、直ぐやめさせられてしまう。ところが商売は、自分が真面目に勉強すればするだけのことは現われて来る。これが官に就いているとか他人に使われている身分だとすると、仕事を少し怠けても御機嫌をとることがうまくて上役とか御主人の気に入っていると出世する。いくら真面目に勉強していても、触りがやわらかでなく、ゴツゴツした持ち前だなどとなると、とても頭が上がらない。とにかく商売くらい正直で正確で自由なものはない。と考えて自分はこの商売にとび込んだのである。

    商売は社会奉仕のひとつ

 また商売というものは、決して得意に対し、恩恵を受けるものでないと考えている。人様の必要な品を揃えておいて、何時でも必要な時に間に合わせる。もしそういう商売人がなかったら、人は食べることも寝ることも出来ない。まるで人跡絶えた山の中に入ったようなものである。至るところ商売人があって、宿屋もあれば料理屋もあり物を売る店があればこそ、旅もたのしく、生きていることに幸福があるのである。
 そういうわけで、商売をしている人は、得意があるから生活も出来るが、得意の方から見れば、やはり商売人がいていろいろなものを供給してくれるから愉快な生活も出来るのである。魚が食べたくても、魚屋がなく、自分が釣りに行くか、河岸まで買いに行かなければならぬとなったら、非常な不便である。私は商売というものは対等なものであって、何も小さくなる必要はないと
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